未翻訳ブックレビュー

世界の本への窓 by 植田かもめ

2016年の未翻訳ブックレビュー

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2016年はだいたい月に1冊ぐらいのペースで本を紹介してきたので、月別のまとめを作った。個人的な好奇心の航行記録。達成も未達もない営業月報。取り上げた本の日本語版が出たかの情報も付記した(2016年12月時点)。

 

ひとつ前にアップしたまとめ記事とかぶっている記述も幾つかあったりするが、かぶっているのはオススメ度が高いもの。

 

2015年の夏に始めたこのブログだけど、今年は編集者の小田明志さんに拾ってもらったり*1、エトガル・ケレットの翻訳者の秋元孝文さんに紹介してもらったり*2など、何かを作ったり書いたりしている人から言及してもらえたことがとても嬉しかった。

 

年内の更新はこれでおわり。読んでくれた皆様ありがとうございます。まだまだ取り上げたい本は多いので、更新頻度は低いだろうし記事はどれも長いだろうけれど来年もたまにアクセスしてみてください。まだ他には出てない情報が書いてある予定。

 

では2016年のまとめです。最も忙しい人は2月だけ、もう少し余裕がある人は2、5、1月をどうぞ(管理人が自分で好きな記事順)。

 

2016年月別まとめ目次

  • 1月:他の動物と人間の一番の違いは?
  • 2月:スマホは恋愛をどう変えた?
  • 3月:白人はアメリカで少数派になる?
  • 4月:シンプルな説明、あとモラル
  • 5月:笑いがなければこの世は闇
  • 6月:今のインターネットはひどい(1)
  • 7月:今のインターネットはひどい(2)
  • 8月:今のインターネットはひどい(3)
  • 9月:成長するってこと
  • 10月:そして神になる
  • 11月: 私たちの歴史。の私たちって誰?
  • 12月: 憎しみと笑い
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俺のグラミー/アカデミー/ピュリッツァー賞2016



去年も書いた、年に一度の自己満足の祭典。
2016年に気に入った音楽と映画と本を紹介する。

 

今年はあんまり厳選しないで、ぶわーっといっぱい作品を並べてみる。音楽が10作、映画が7作、本が20冊ある。ページを分けた方がいいのかもしれないけれど、ASKAのブログみたいに長くてなんか禍々しい記事を作ってみたかった気もするのでそのままにしておく。

 

自分にとって音楽や映画や本ってカレンダーや日記みたいなもので、「あの仕事をしていた頃にこの音楽よく聞いていたな」とか「あの人とあのレストラン行った帰りにこの映画見たな」とか「あの飲み会なじめなくて二次会行かずに帰ってこの本読んで寝たな」とかの記憶とセットになっている。

 

なので、この下にいっぱい並べるリンクは、将来の自分にたどらせる記憶のパンくずであり、連想ゲームのヒントであり、歳月に貼った付箋である。デスクやモニターに貼られた付箋と同じで、他人が見ても何のメモかよくわからないかもしれないが自分には重要なアイテム。

 

ではどうぞ。

なお、それぞれ連番を振っているけれど、特に順位とかを意味しているわけでない。

目次

  • 俺のグラミー賞
  • 俺のアカデミー賞 
  • 俺のピュリッツァー賞

 

 

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カタルシスより笑い - エトガル・ケレット未訳短編集

The Bus Driver Who Wanted to Be God & Other StoriesMissing Kissinger

The Nimrod Flipout: StoriesThe Girl on the Fridge: Stories 

 

「あんたらが任務にあたるとき、天国で70人のエロい処女が待っていると教えられるってホント?」

 

「ホントだよ」ナッサーは言った。「それで実際に俺が手にしたものを見てみろよ。ぬるいウォッカだ。」

 

自殺した人間だけが行き着く世界のとあるバーで、自爆テロ犯がそんな風に愚痴を言う。エトガル・ケレットの連作短編"Kneller's Happy Campers"のワンシーンである。同作は「リストカッターズ」というタイトルで、日本未公開だけど映画化もされている。

 

今年(2016年)日本語版が発売された「あの素晴らしき七年」というエッセイ集を読んだのがきっかけで、このイスラエル作家にハマった。5月に複数の記事を書いてほめまくったけれど、過去作を全部読み終えたので、この記事では再び彼を紹介する。

 

目次

  • エトガル・ケレット一日一話
  • スッキリしないし美化もしない
  • 笑いの花
  • 訳してみたよ
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憎んでいるのでなく憎まされている

The Attention Merchants: The Epic Scramble to Get Inside Our Heads

 

The Attention Merchants by Tim Wu

 

'Post-truth'(ポスト真実、脱真実、ガセネタ)がオックスフォード辞典のワード・オブ・ザ・イヤー2016に選ばれた話や、WELQなどキュレーションメディアが非公開化した騒動を見ていると、PV数に応じて広告料収入を分配するインターネットのモデルってまだまだ改善途上なのだなと思う。

 

以前の記事で紹介した'I Hate the Internet'という小説の中に次のようなくだりがある。

 

人種差別は21世紀の有益な製品だ。なぜならばより多くの広告をもたらすから。そして、人種差別への反抗も有益な製品だ。やはり多くの広告をもたらすのだから。

 

2016年の今年、フェイスブックのリアクションボタンが「いいね」から「ひどいね」や「悲しいね」などに拡張された。これって、賛意から怒りや悲しみへの「販路拡大」なのだと思う。お金に色はないという言い方があるけれど、PV数にも(今のところ)色はない。クリーンでもダーティーでも、アテンションを集めればそれを広告主に売れる。

 

目次

  • 広告付きの学校
  • ジョージア(グルジア)のフェイクニュース工場
  • ジャンクフード化する無料コンテンツ
  • 過去記事紹介:憎しみ3部作
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俺にはわかる - I Know Better by John Legend

Darkness & Light

 

2016年12月に発表されたジョン・レジェンドのアルバム"Darkness And Light"(闇と光)より、"I Know Better"の対訳です。

前の記事で紹介したラインナップにも加えたい一作。上に貼った公式動画で曲は聴けます。元詞はラプジより。

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'各自の生活を美しくしてそれに執着する'ための2016年のブラックミュージック

We Got It From Here… Thank You 4 Your Service 

 

"All you Black folks, you must go
All you Mexicans, you must go
And all you poor folks, you must go
Muslims and gays, boy, we hate your ways
So all you bad folks, you must go"

(黒人たちめ、出て行けよ
メキシカンども、出て行けよ
貧乏人め、出て行けよ
ムスリムとゲイ、嫌いだな
悪いやつらめ、出て行けよ)

We The People

ヒップホップグループ、ア・トライブ・コールド・クエストの18年ぶり6枚目(にして最後になるらしい)アルバムWe Got It From Here… Thank You 4 Your Serviceがすばらしい。 

 

上に引用したのは"We The People"という曲のリリック。差別や排斥に対する風刺であり皮肉だ。この曲のタイトルである"We the People"というのはアメリカ合衆国憲法の前文に出てくる言葉である。

"We the People of the United States, in Order to form a more perfect Union, establish Justice, insure domestic Tranquility, provide for the common defense, promote the general Welfare, and secure the Blessings of Liberty to ourselves and our Posterity, do ordain and establish this Constitution for the United States of America."

(われら合衆国の人民は、より完全な連邦を形成し、正義を樹立し、国内の平穏を保障し、共同の防衛に備え、一般の福祉を増進し、われらとわれらの子孫のうえに自由のもたらす恵沢を確保する目的をもって、アメリカ合衆国のために、この憲法を制定する。)

- Wikipediaの訳文より

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見えないアメリカをめぐる400年 - White Trash by Nancy Isenberg

White Trash: The 400-Year Untold History of Class in America 

White Trash: The 400-Year Untold History of Class in America
(ホワイト・トラッシュ:アメリカの語られざる階級の400年の歴史)

 

ドナルド・トランプが大統領選挙に勝利した。
このブログでは、人口に占める白人割合の低下を背景とする、共和党の長期的な凋落傾向を予見した本を3月に紹介したりしていた↓

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