未翻訳ブックレビュー

世界の本への窓 by 植田かもめ

【寄稿連載更新】人工肉の世界へようこそ

Clean Meat: How Growing Meat Without Animals Will Revolutionize Dinner and the World (English Edition)

 

タトル・モリエイジェンシーさんが世界の本棚からお薦めを紹介する「翻訳書ときどき洋書」への寄稿連載、更新しました。

 

 

ビールを醸造するように幹細胞から肉を培養する「アニマル・フリー」な肉の実用化を目指すスタートアップ企業を描くノンフィクションをご紹介。またまたユヴァル・ノア・ハラリの名前を出しています(本書の序文を書いている)。

 

<連載バックナンバー>

#05 役に立たない美しさ

#04 Facebookは私たちを分断しているのか

#03 「なぜならば」がわかるのは、なぜなのか

#02 チンパンジーに勝つ「ファクトフルネス」思考

#01 言いにくいことは機械が言ってくれる?

 

【さよなら人類】ホモ・サピエンスからホモ・デウスへ - Homo Deus by Yuval Noah Harari

Homo Deus: A Brief History of Tomorrow

Homo Deus: A Brief History of Tomorrow

2016/10/31 初出
2018/09/09 日本語版「ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来」発売につき更新

 

「あなたが望めば戦争は終わる」とジョン・レノンは言ったけれど、望まなくても戦争が終わり、望まないと死ねない時代が来るかもしれない。ただし万人にではない。

 

本書「ホモ・デウス」は、イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリによる未来予測本である。以前にこのブログでも取り上げて↓日本語版も2016年9月に遂に発売された世界的ベストセラー「サピエンス全史」(Sapiens)の続編にあたる。*1

 

目次

  • 飢餓、疫病、戦争
  • 知性と意識の分離
  • 人間主義の終わり?

 

*1:3部構成の本書だけど、ぶっちゃけ第1部と第2部は前作「サピエンス全史」の使い回しである

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これも愛 - The First Bad Man by Miranda July

The First Bad Man: A Novel (English Edition)

2015/06/20 初出
2018/08/19 日本語版発売につき更新

ミランダ・ジュライ著、岸本佐知子訳「最初の悪い男」として2018/08/24発売

 

“I just call it my system."

ミランダ・ジュライの小説”The First Bad Man"の主人公Cheryl(シェリル)は、自分の生活スタイルを「システム」と呼ぶ。

 

人は沈んだ気分になると皿洗いも面倒になってシンクに皿が積み上がる。だったら初めから皿の数を減らそう。本棚から取り出して散らばった本を元の位置に戻すのは大変な労力なので、本棚のすぐそばで読書をしよう。いや、そもそも本なんか読むのをやめよう。一人暮らしの彼女は身の回りのものを最小限にしたシステムを築き、妄想の中に生きる。想像上の理想の赤ん坊をKubelko Bondy(クベルコ・ボンディ)と名付け、いつかその子とめぐり会うという運命を信じながら・・

 

40代半ばのシェリルは、女性向けに護身術を教える団体ではたらいている。もともとはNPOだったが、今は護身術とエクササイズを組み合わせたDVDを売って稼いでいる団体だ。ある日、職場のボスであるフィリップが、20歳になる娘のClee(クリー)をシェリルの家で預かってくれないかと持ちかけてきて、彼女は承諾する。しかも無償で。シェリルは善人で、そして孤独だ。*1

*1:"Be good and you will be lonely.” - Mark Twain

「 善く生きなさい。そうすれば孤独になれる。」 - マーク・トウェイン

 

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未来が見える未訳本カタログ2018

最終更新:2018.11.17

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毎年恒例、面白そうな未訳本のまとめ記事を今年も作成してみた。

 

去年までは5月の連休の時期に書いていたけど、今年は夏の公開にした。理由は、英語圏では「サマー・リード」や「ビーチ・リード」などの名前で、本の紹介情報が夏に数多く出てくるので、それを取り込みたかったから。

 

たとえば、JPモルガンは今年まで述べ19年にわたり読書リストを公開している。また、ビル・ゲイツも毎年「この夏に読むべき本」を公開している。

 

この記事で紹介するカテゴリーは去年までと同じ以下の3つ。

  • Fiction & Art / フィクションと芸術
  • Business & Society / ビジネスと社会
  • Science & Technology / テクノロジーと科学

 

で、今年はそれにプラスして、今までこのブログ等で紹介した中から「ついに邦訳が出る本!」枠と「邦訳が一番出てほしい本!」枠を作った。それぞれ一冊紹介する。

 

ではどうぞ。

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世界全体があなたを愛する楽園 - 村田沙耶香「消滅世界」

消滅世界 (河出文庫)

 

「LGBTは子どもを産まないため生産性がなく、彼らに税金を投入するのはおかしい」という主旨の寄稿をした国会議員がいた。

 

この意見は差別だし真っ当な反論は各所でされている。でも、その議員には別の質問もしてみたい。もし次のように訊いたら、なんと答えるだろう。

 

「たしかにLGBTって生産性がないですよね。でも、ヘテロの男女家族も、生産性低くないですか?だから、人工授精の研究を進めて、家族とか結婚とか関係なく子どもが生まれる、生産性の高い社会を目指しませんか?」

 

村田沙耶香の小説「消滅世界」は、そんな「高い生産性」が実現した社会の物語である。2018年の7月に文庫化されて読んだらめちゃくちゃ面白かったので、これは同書の紹介と、考えたことについての記事。

 

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