未翻訳ブックレビュー

世界の本への窓 by 植田かもめ

ネオ・チャイナ、面白い

ネオ・チャイナ:富、真実、心のよりどころを求める13億人の野望

Age of Ambition: Chasing Fortune, Truth and Faith in the New China

 

前の記事で紹介したブックリストに出てくる「ネオ・チャイナ:富、真実、心のよりどころを求める13億人の野望」を読んだ。これ、めちゃくちゃ面白い。

 

英国出身ジャーナリストが現代中国を描いたノンフィクションだけど、何に印象が近いかと言うと、デヴィッド・ハルバースタムが1950年代のアメリカを描いたノンフィクションの古典「ザ・フィフティーズ」である。または、1920年代のやはりアメリカを描いたノンフィクション「オンリー・イエスタデイ」みたいだ。

 

つまり、ある国が超大国に変貌していく時代の、熱狂、希望、欲望、矛盾、絶望、混沌が詰まっている。原題は"Age of Ambition"すなわち「野心の時代」である。

 

2段組みで400ページ超の群像劇で、台湾から中国に泳いで亡命した世界銀行の元チーフエコノミストや、「選択肢の多様化という現象にまだ適応できていなかった」中国で結婚マッチングサイトを立ち上げた女性起業家など様々な人物が登場する。

 

全体は3部構成で、13億人が野望を持って追い求めている、

富、

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真実、

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そして、心のよりどころ、

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という並びになっている(デカ文字の中表紙が面白くてキャプチャしてみた)。

 

著者のエヴァン・オズノスは、現代の中国がどの国に似ているかをプロローグで述べる。現代の中国は、経済は加熱してもバブル期の日本とは似ておらず、一党独裁ではあってもソ連やさらにはナチス・ドイツとは似ていないという。以下引用で、太字は筆者。

むしろ中国は多くの点で、転換期の米国ーマーク・トウェインとチャールズ・ワーナーが「金ぴか時代」と命名し、「だれもが夢やこだわりのプランを持つ」と言われた時代ーを思い起こさせる。(中略)米国における百万長者の数は1850年の時点で20人にも満たなかったが、それが1900年までに4万人に達していた

鉄道会社を経営していたチャールズ・フランシス・アダムズ・ジュニアはこう語っていたー「わたしたちのビジネスのやり方はね、嘘、騙し、それに盗みで成り立っているのさ」

こうしたなか、F・スコット・フィッツジェラルドも、ノースダコタから自らを真新しい世界に投じ、愛と富をかなわぬままに追い求めたジェイムズ・ギャッツのきらめくような物語を世に出したのである。

中国の真新しい高層ビル街に立っていると、『グレート・ギャツビー』で描かれたニューヨークを思い出すことがあったー「いつ見ても初めてのような印象を与え、世界中の神秘と美がそこにあると感じさせる街」

 

もしいつか、中国版「グレート・ギャツビー」みたいな小説が生まれるならば、ぜひ読んでみたい。

 

本書の原書は2014年発売で、日本語版は2015年に出ている。だから、アリババもジャック・マーも登場しない。テンセントも微信(WeChat)も登場しない。

 

さて、グーグル中国法人の元代表で、人工知能の研究者であるLee Kai-Fuが出版したAI Superpowersという本をいま読んでいる。AIは発見から実装の時代に入っていて、この時代には米国よりも中国が有利、と語る本だ。

 

中国の野心はまだまだ尽きてなくて、その実現のピークは今よりもっと先にあると思う。「ネオ・チャイナ」の続編が十数年後にもし書かれるならば、中国のモバイルビジネスやAI産業がきっと描かれるはず。

 

そして、中国版「グレート・ギャツビー」がいつか生まれるならば、「クレイジー・リッチ・エイジアンズ」ミーツ「ブレード・ランナー」みたいな、カオス作品になるのかもしれない。

 

 

ネオ・チャイナ:富、真実、心のよりどころを求める13億人の野望

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AI Superpowers: China, Silicon Valley, and the New World Order

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ザ・フィフティーズ1: 1950年代アメリカの光と影 (ちくま文庫)

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オンリー・イエスタデイ―1920年代・アメリカ (ちくま文庫)

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