未翻訳ブックレビュー

世界の本への窓 by 植田かもめ

書くための10のルール(というか隠れた真実)by エトガル・ケレット

 

イスラエルの作家エトガル・ケレットの自伝的エッセイ集「あの素晴らしき七年」に恋しているので、引き続き関連エントリー。

 

Twitterでケレットによる執筆十ヶ条という記事を紹介している方がいた(この方はケレットのエッセイのうまさを米原万理と並べていて、それもなるほどと思った)。


この記事がまたとても面白かったので、勝手に訳して紹介する。

 

作家向けに書かれたルール集だけど、作家にかぎらず、絵でも音楽でもプログラミングでも企画書や提案書でもなんでも、なにかを作り出す人には有益なアドバイスになるかもしれない。アドバイス、といいながら「きみが作るものはきみしか知らないのだから人のアドバイスなんか聞くな」というのが一番のポイントだったりする。ではどうぞ。

 

元記事

http://www.rookiemag.com/2012/09/ten-rules-for-writers/

(注:元記事はエトガル・ケレットが書いたおそらくヘブライ語の原稿を英語翻訳した記事。元記事の導入部はこの記事では省略) 

 

書くための10のルール(というか隠れた真実)
Ten Rules for Writers - Not even rules, more like hidden truths

1. 書くことは楽しいと認めよう
Make sure you enjoy writing.

作家というのは、執筆のプロセスがどれだけ大変でどれほど苦痛であるかといつも言いたがる。ウソだ。心から楽しんでいることで生計を立てているとは人間は認めたがらない。

書くことは別の人生を生きることだ。それも、数多くの人生を。彼らはあなたがなったことのない無数の人々でありながら、 完全にあなた自身である。腰を下ろしページと向き合い文章を書いてみるときは、いつだってあなたの人生のスコープを広げるチャンスなのだ。たとえうまくいかなくても感謝しよう。それは楽しくて、ノリノリで(groovy)、極上な(dandy)ことである。そんなことはない、なんて誰にも言わせるな。

 

2. キャラクターを愛そう
Love your characters.

キャラクターをリアルにするためには、彼らを愛して理解してあげる人間が少なくともひとりはこの世界に必要だ。たとえキャラクターのすることを好きであろうとなかろうと。あなたは自分が創ったキャラクターの母親であり父親である。あなたが彼らを愛せないなら、誰も彼らを愛せない。 

 

3. 書いているときは誰にも何にも借りはない
When you're writing, you don't owe anything to anyone.

実生活では、お行儀よくしていないと刑務所か施設に入るハメになる。けれど、書くときには何だってできる。あなたにアピールしてくるキャラクターがいたら、キスしよう。物語に登場させたカーペットが気に入らなかったら、リビングの真ん中で火をつけよう。書いているときは、キーをクリックするだけで全惑星を破壊して全文明を滅亡させられる。そしてその1時間後に下の階に住むおばあさんと廊下ですれ違っても、彼女はまだあいさつしてくれるのだ。

 

4. 常に途中から始めよう
Always start from the middle.

出だしというのはフライパンに触れて焦げたケーキの端っこみたいなものだ。話を進めるためにとりあえず必要かもしれないけれど、本当は食べられない。

 

5. どう終わるか知ろうとするな
Try not to know how it ends.

好奇心にはパワフルな勢いがある。手放しちゃいけない。ストーリーやチャプターを書こうとしているときにはキャラクターの動機や状況をコントロールすべきだ。でも、プロットをひねって、常に自分を驚かせよう。

 

6.「いつもそうだから」というだけで何かを使うな
Don't use anything just because "that's how it always is."

パラグラフ構成、引用句の使い方、そしてページをめくっても同じ名前のままのキャラクターたち。これらは全てあなたに奉仕するために存在する決まり事だ。役に立たないなら、忘れよう。あなたが読んできた本すべてに存在するルールがあるからといって、それをあなたの本にも当てはめないといけないわけではない。

 

7. 自分らしく書こう
Write like yourself.

もしあなたがナボコフみたいに書こうとしても、あなたよりうまくできる人が最低ひとりは存在する(ナボコフである)。でも、あなたのやり方で書くことにかけては、いつだってあなたは世界チャンピオンだ(when it comes to writing the way you do, you'll always be the world champion at being yourself)。

 

8. 書くときは部屋でひとりきりになろう
Make sure you're all alone in the room when you write. 

カフェで書くのはステキに思えるかもしれない。でも、自覚するかどうかにかかわらず、周りに人がいると彼らに同調させられてしまうものなのだ。周りに誰もいなければ、あなたは自分自身と話をして気付かれずに鼻だってほじれる。書くことは鼻をほじるのと同じような作業になりうる。もし周りに人がいたら、動きが不自然になってしまうだろう。

 

9. あなたが書くものを好きな人から勇気をもらおう
Let people who like what you write encourage you.

で、その他の人は無視しよう。あなたが書くものが何であれ、彼らのためのものではないのだ。気にするな。世のなか他にもいっぱい作家はいる。目を凝らしてがんばれば、きっと彼らは自分の期待に合う作家を見つけられるはず。

 

10. みんなの言い分を聞こう、でも誰の言うことにも従うな(自分以外に)
Hear what everyone has to say but don't listen to anyone (except me).

書くことはこの世でもっともプライベートな領域だ。あなたがどんなコーヒーを好むかを誰も教えてくれないように、あなたがどう書くかを本当は誰も教えられない。もし誰かがくれたアドバイスが正しそうに聞こえて正しいと感じるなら、採用しよう。もし誰かがくれたアドバイスが正しそうに聞こえても、おかしいなと感じたら1秒たりともそれに時間を費やしてはいけない。それは他の誰かには役に立つのかもしれないが、あなたにではない。

 

 

以上。「あの素晴らしき七年」「突然ノックの音が」で彼の作品を既に知っている人にとってはエトガル・ケレット節さく裂の、愛と皮肉と身もフタもなさに溢れた10のルール。

 

たとえば運転教習でスピードを出し過ぎて怒られる人もいればスピードを出さな過ぎて注意される人もいるように、世の中には他人が決めたルールを無視しがちな人と守り過ぎな人がいる。特に後者の人にとって、こういうルール集という名のアンチルール集は参考になるかもしれない。元記事の英語は比較的平易な文章なので、気に入ったらぜひ元記事も読んでみていただきたい。