俺のグラミー/アカデミー/ピュリッツァー賞2018
年に一度の"自己満足"の祭典。
それが、俺のグラミー/アカデミー/ピュリッツァー賞。
2018年に管理人が気に入った音楽と映画と本を紹介します。今年でもう4回目。
記事の最後にこのブログ運営の雑感も書いているのであわせてどうぞ。今年も、読んでくれたみなさま、ありがとうございました。
目次
俺のグラミー賞
リンクはいずれもYoutubeのMVへのリンク
- 小袋成彬「分離派の夏」
- 宇多田ヒカル「初恋」
- Earl Sweatshirt "Some Rap Songs"
- Andres Muratore "Del Suspiro De Los Peces"(魚のためいき)
- 88rising "Midsummer Madness"
今年の音楽。
と言いつつ、音楽自体についてではなく、音楽が表現するモチーフみたいなものについて思ったことを書いておく。
ピュリッツァー賞の音楽部門を受賞したケンドリック・ラマー"DAMN"収録の"PRIDE"に次の一節がある。
"It wasn't all to share, but there I care, I care"
(意訳:シェアはできない、でもそこにいて、ケアをする)
不特定多数へのシェアよりも、特定の誰かへのケア。ソーシャルよりも、パーソナル。上のリストに挙げた作品のうち、88rising以外の4つは、そんな内省的なモチーフを表現している(と、私が勝手に解釈した)音楽。小袋成彬についての過去記事にも似たような話を書いた。
で、88risingは、そんな内省とは真逆の、音楽というか会社というかムーブメント(参考過去記事)。アジア系のラッパーたちでアメリカを乗っ取るという、正体不明の新しさにシビれた。"Midsummer Madness"のMVを初めて見たとき、人種ミックスな連中が、だらだら遊びながら"Fuck the ru-u-u-ules"(ルールなんてクソ)と歌っているのを見て、なぜか勇気づけられた。どんな勇気なのか自分でも謎だけど。
俺のアカデミー賞
今年の映画・・をバーフバリぐらいしか見ていない。
でも、バーフバリさえ見ていればいいという気もする。
俺のピュリッツァー賞
- J.M.クッツェー「マイケル・K」
- Hans, Ola & Anna Rosling "Factfulness"
- Hugo Mercier, Dan Sperber "The Enigma of Reason"
- Micheal Lewis "The Fifth Risk"
- 村田沙耶香「消滅世界」
- アモス・オズ「わたしたちが正しい場所に花は咲かない」
- Judea Pearl "The Book of Why"
- エヴァン・オズノス「ネオ・チャイナ」
- Kai-Fu Lee "AI Superpowers"
- 堀内進之介・吉岡直樹「AIアシスタントのコア・コンセプト」
- ベン・パー「アテンション」
今年の本。
ベスト本は、フィクションがクッツェーの「マイケル・K」、ノンフィクションがロスリングの"Factfulness"。この記事の前に別記事で上のリストの何冊かを既に紹介してしまった。
・・なので、残りの本について簡単に紹介する。
村田沙耶香「消滅世界 」は、人工授精によって女性だけでなく男性も妊娠して出産をする社会を描いた小説(レビュー過去記事)。村田沙耶香の、性や家族や社会制度を当たり前のものとしないで「他の可能性もあるのでは?」と想像する感覚が大好き。
アモス・オズ「わたしたちが正しい場所に花は咲かない」は、イスラエルの作家の講演録。これは完全にタイトル買い。皮肉交じりに自らを"比較狂信主義学の専門家"と呼ぶ著者が、人がなぜ狂信主義に陥るかを語る。
「もっとも危険なのは人間の心、とくに自分自身を笑えないことだ」(同書より)
ジューディア・パール"The Book of Why"は、コンピュータ科学者にして「パートタイムの哲学者」である著者による、因果推論についての包括的な概説書(レビュー寄稿記事)。物事には理由がある、と人間は当たり前のように考えるけれど、実はそれってかなり特殊な発想なんじゃないか?と思わされる一冊。
エヴァン・オズノス「ネオ・チャイナ」<レビュー過去記事>とカイフー・リー"AI Superpowers"<レビュー寄稿記事>は、ジャンルは全然異なるけれど、どちらも現代中国の"野望"について書いた熱い本。
堀内進之介、吉岡直樹「AIアシスタントのコア・コンセプト」は、ふわっと語られがちな「AI関連技術」に社会学の見地から「新たな語彙」を与える本。ちなみに、同書ではユヴァル・ノア・ハラリ「ホモ・デウス」で提示されるAIと人間が融合して身体を拡張するという未来への対案を出している。「ホモ・デウス」にちゃんと対案を出す本って、日本語でも英語でも初めて読んだ。
最後に、ベン・パー「アテンション」は、注目という希少リソースをどう獲得するかについての本で、名著「影響力の武器」のデジタルコンテンツ版とでも呼べそうな、素晴らしい一冊。
2018年の未翻訳ブックレビュー
さて、最後にこのブログの運営などに関する雑感。
上に挙げたベン・パー「アテンション」によると、Youtuberの人たちは15秒以内に視聴者にもっと見たいと思わせなければいけないという統計があるらしい。
これがもし動画でなくテキスト記事にも当てはまるなら、15秒ってせいぜい100〜200字ぐらいだろう。人の注目を惹くための持ち時間はとても短い。この長い記事をここまで読んでくれている方もたぶん少数派だと思う。
自分がニュース系アプリで唯一購読しているEconomist Espressoというアプリは、毎日配信される7本程度の各記事が、ほぼほぼiPhoneを一度もスクロールせずに読める長さにまとめられている。短い、はかなり正義だ。
「Economist Espresso」をApp Storeで<無料版は毎日記事1本だけ閲覧可能>
このブログの記事の長さはそこまで短くできないだろうけれど、「スクロールしない段階で言いたいことは分かる」という構成で記事を書くようにしていきたいなー、と思う。
おかげさまでアクセス数は毎年(地味に)伸び続けていて、今年は外部メディアへの寄稿連載の話もいただいた。何のコネもツテもなくこのブログを読んで声をかけてもらえたというのが嬉しかった。
※毎月ノンフィクション系の洋書(だいたい新刊)を紹介しているのでぜひご覧ください
来年もこのブログの更新頻度はきっとユルめだけど、まだ日本語でどこにも出ていない情報が(たまに)載っているはずなので、どうぞごひいきに。