未翻訳ブックレビュー

世界の本への窓 by 植田かもめ

早稲田文学増刊女性号への私的トリビュート

早稲田文学増刊 女性号 (単行本)

早稲田文学増刊 女性号

 

川上未映子責任編集、2017年9月発売の「早稲田文学増刊・女性号」を読んだ。掲載されている新旧洋邦の小説、詩、短歌、エッセイ、対談の作者がオール女性。500ページ超の分厚さで、辞書みたいとも言えるけど、より印象が近いのは雑多な書き手のマンガ雑誌。石垣りん、今村夏子、ヴィンセント・ミレー、チママンダ・アディーチェ、松田青子、ルシア・ベルリンなどなどシビれる執筆者のラインナップは公式ページで見られる。

 

そして、このブログで過去に紹介した作家も同誌内に複数登場しているので、以下に関連過去記事のまとめを作ってみた。おこがましい言い方だけど、とてもヴァイブスが近いと感じている。ヴァイブス/vibes、というのは「ノリ」とか「雰囲気」とか訳されるけれど、ここでは「感受性」という意味で使っている。

 

どういう感受性か。ぼんやりまとめると次のような感じ。同誌のコンテンツとして、CRY IN PUBLICという三島市のコミュニティスペースのマニフェストが掲載されている。そこには「CRY IN PUBLIC(公共の場で叫べ)という名前はKill Rock Starsというレーベルから最初に出されたレコードのスリーブにはさまれたマニフェストから取られています」とある。

 

んで、名付けた方はおそらく自覚的だろうけど、"CRY IN PUBLIC"には「人前で泣く」という意味もある。この、「公共の場で叫ぶ」強さと「人前で泣く」弱さどちらの"CRY IN PUBLIC"も大事にする。そんな感受性を同誌全体から感じたし、以下の記事で紹介する作家から出ているのもそんなヴァイブスだと思っている。

 

では、早稲田文学増刊女性号、に出てくる人が出てくる、私的トリビュート過去記事まとめをどうぞ。

 

Index

 

川上未映子xイーユン・リー対談

同誌の責任編集の川上未映子と、彼女がファンであると公言している米国の作家イーユン・リーとの対談のレポート。雑誌にはイーユン・リーの短編「かくまわれた女」(篠森ゆりこ訳)が掲載されている。

 

イーユン・リーの小説とエッセイ

その、イーユン・リー「かくまわれた女」の(原書を読んだときの)レビュー。容赦なく非人情で無慈悲なイーユン・リーの本領がさく裂する短編を日本語で読めて嬉しい。

 

管理人のイチオシ作家であるイーユン・リーについては他にも過去に記事を書いた。この初エッセイ本は未訳(17年10月現在)だけど「かくまわれた女」が肌に合った人はこちらもきっと気に入るはず。

 

ロクサーヌ・ゲイのエッセイ

イーユン・リーのエッセイを紹介する流れで、米国の作家ロクサーヌ・ゲイによるエッセイ集「バッド・フェミニスト」に言及した過去記事。早稲田文学女性号の中には「わが父の死去にあたり」という小品が収録されている。エッセイストとして有名なので間違える人がいるんじゃないかと思うけど、短編小説集"Difficult Woman"からの一編。

 

イ・ランの音楽

韓国の才能の塊、イ・ラン。シンガーソングライターであり文章も漫画も映画も作る彼女のエッセイ「韓国大衆音楽賞 トロフィー直売女」が早稲田文学女性号に掲載。ネットニュースにもなった彼女の"パフォーマンス"を軸に韓国の男女格差について語るもの。ちなみにイ・ランはインタビューもいちいち面白い。

イ・ランが韓国大衆音楽賞の受賞トロフィーをオークションにかける | インディーミュージシャンの窮状をユーモアで訴える

Who Are You?:イ・ランさん シンガー・ソングライター | VICE JAPAN

 

おまけ

ついでに、早稲田文学女性号を読みながら音楽を聞くなら、イ・ラン「神様ごっこ」か、昨年のSolange(ビヨンセの妹)の"A Seat at the table"、今年のSZAの"Ctrl"なんかが「ヴァイブス近くて」合うんじゃないかと思う。

 

 

・・以上、ひとりトリビュート終わり。

で、早稲田文学女性号読んでみて!と言いたいところなんだけど、いまこれを書いている17年10月初頭時点ではAmazonでも公式サイト通販でも売り切れの模様。。待つか、書店在庫を探すかして是非どうぞ。。

早稲田文学増刊 女性号 (単行本)

早稲田文学増刊 女性号 (単行本)