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【和訳と感想】白人の特権II - White Privilege II by Macklemore & Ryan Lewis

書評ではないのですが、白人ヒップホップデュオのマックルモア&ライアン・ルイスが2016年の1月に発表した'White Privilege II'という曲の歌詞を日本語訳してみました。上に貼ったYoutubeで公開されている他、特設サイトで無料配信もしている曲です。

 

この曲は、まとめサイト風の言い方をむりやりすると「白人ラッパーが黒人デモに参加した結果www」を歌っています。

 

2014年にミズーリ州ファーガソンで18歳の黒人青年が白人警官によって射殺された事件への抗議をきっかけに起こった、黒人の権利擁護を訴える社会運動があります。Black Lives Matter(黒人の命は大事だ)と呼ばれるこのムーブメントの中で、マックルモアが白人ラッパーとして感じた葛藤が綴られています。

 

タイトルは「白人の特権」という意味ですが、もし勝手に副題をつけるなら「贅沢な沈黙」と呼びたいです。下の方に感想コメントを書きましたが、人種問題に限らず、何かについて声をあげる(speak out / become vocal)か、それとも黙っているかについての歌だからです。

 

ラップのヴァース以外にも途中でいろいろな「声」が入り乱れる9分近い大作で、原詞と「声」と脚注はgenius.comの以下ページを参照しました。一部、原詞をカッコ書きで並記しています。では、クソ長いですが、どうぞ。

 

白人の特権II(White Privilege II)

【Verse 1】

駐車場に車を停めて、パーカーのジップを上げてデモ行進に加わった

「これっておかしいか?俺ってここにいるべきか?」

頭の中はそんな感じ

 

彼らが生きられないなら、俺はどう生きる?

彼らのチャントを聞いて、俺は何を歌う?

 

態度を表明したい、俺たちは自由じゃないのだから

そして思った、俺たちは"we"なんかじゃない(we are not "we")

 

外側にいて中を見ているのか、内側にいて外を見ているのか?

ここは俺が口を挟むべき場所なのか?
(Is it my place to give my two cents?)*1

それとも傍観して口を閉ざすべきなのか?

 

「正義がなければ平和はない」

オーケー、それなら俺にも言えるけれど、

「黒人の命は大事だ!」

彼らがそうチャントすると、俺は後に続けない

俺が言っていいのだろうか?

わからない、だから突っ立って見てる

 

目の前にいる警察は俺と同じように見える

違うのは、バッジ、バトン、警棒、マスク、シールド、そして銃と手袋があるかだけ

それはアリバイ作りのためのもの

「9」から飛び出た銃弾で誰かが死ぬか、子どもの命をまた奪ったときのため*2

 

【Hook】
ストリートには血が流れる

正義がなければ平和はない

レイシストの思想は不要だ

自由になるまで休みはない

 

【Interlude 1】

<マックルモアの声>

「何をやっているんだ、ベン?」(注:ベンはマックルモア自身の本名)

「ここで何をしてるんだ?」

<匿名の男性たちの声>

「ここに来るべきじゃないぜ、お前は白人で有利だ、こんなとこ来やがるなよ」「俺たちを馬鹿にしてんのか」「'Black Lives Matter'、さあ言おう」— 'Black Lives Matter, Black Lives Matter, Black Lives Matter, Black Lives Matter.' —「やるべきじゃなかったのに。なんだってあんなことしやがったんだ?」「何にでも反応しやがって。ほっとけよ」「白人のレイシスト」「グラミー賞のヤツがいるぞ!」

<マックルモアの声>

「ベン、よく考えてみろ」

 

Verse 2

お前らは搾取し盗んでいる

音楽を、瞬間を、魔法を、情熱を、ファッションを、

お前らはもてあそんでいる

お前らがそのカルチャーをよくしたことなんてない

マイリー、エルヴィス、イギー・アゼリア、フェイクのニセモノたち

お前らはその魔法を強奪した

お前らが使ったドラムやラップのアクセント、ヒップホップのブランド、

それはファシストで時代錯誤なもの

だからグランドマスター・フラッシュに叩かれるんだよ、ばかやろう(you bastard)

お前らが稼いだ金、骨抜きにされたポップでくだらないカルチャー、

クソでかい芝生があるクソでかい家と他人を近寄らせないクソでかいフェンス、

全部盗んだものだぞ、わからないのか?

落ち着かせることなんてできないぞ

 

お前は行進に参加し、抗議し、わめき、叫ぶ

ツイッターでハッシュタグをつけて落ち込んでるように見せつける

けれどそんなの見透かされる、他人はお前を信じているのか?

「レスト・イン・ピース、マイク・ブラウン*3

お前は周囲にそう語る

平等について話しているけれど、本当にそう思っているのか?

自由のために行進しているのか、都合がいいからやってるだけなのか?
(Are you marching for freedom, or when it's convenient?)

好かれたい、受け入れられたいだけなのか?

ここで抗議に加わっている理由はそれなんじゃないか?

動機なくやってるなんて思うなよ

これがお前のことなら、狙いは一体なんなんだ?

狙いはなんだ?狙いはなんだ?

 

【Interlude 2:Protesters / 抗議者たち】 

「手は上げてる、撃つな」
("Hands up. Don't shoot!")*4

 

Verse 3

(注:ファンがマックルモアに話しかけてきた場面を再現してラップしている)

「ねえ、もちろん分かってるのよ、あなたが写真を撮られるのがイヤなのは。でもマジで、私の娘があなたを好きなのよ。いつも'I'm gonna pop some tags'*5って歌ってるの、ホントに。長男だって中古で物を買うようになったんだから。それに、'One Love'*6、オーマイガ、あの曲はね、最高。おじがゲイなんだけど、あの曲が出てから、私の息子はそのことをクラス中に誇らしげにしゃべったのよ。とってもクールだわ。あなたが成し遂げてることを見てよ。私みたいな年とった母親だってあの曲が好きなのよ、だってポジティブだから。私が子どもに聞かせられるヒップホップはあなたのだけ。だってほら、ネガティブなものってクールじゃないもの、ねえ。銃やドラッグやビッチ(bitches and hoes)やギャング(gangs and thugs)のことばっかり。いまの抗議運動だって悲しいしあほらしい。警官が引き止めてるのに走る方が悪いわよ*7

・・・はぁ?

 

【Interlude 3: Various male and female voices / 男性たちと女性たちの声】 

「彼らは警察が黒人を差別していると感じているの?」「私がアドバンテージを持ってる?どうして?私が白人だから?ええ?そんなわけない」「最近の連中は女々しいよ。何にでも腹をたてる世代だな」「'Black Lives Matter'って、武器を持ちたいためにやってる口実だよ、ささいな事なのに」「私は偏見を持ってない」「国全体で考えたら、警察は99パーセントの場合で適切に仕事をしているよ」

 

【Verse 4】

クソっ。多くの意見、混乱、怒りがある

怯えている人もいれば防衛的な人もいる

そして、ほとんどの人は注意を向けようとすらしない

まるで、実際にレイシストになることよりもレイシストと呼ばれることを気にしているみたいだ
(It seems like we're more concerned with being called racist than we actually are with racism)

沈黙もひとつの行動なのだと聞いた、神は俺が消極的だと知っている
(I've heard that silences are action and God knows that I've been passive)

もし俺が、記事を読み、会話して、自分を見つめて、実際に巻き込まれたらどうなるだろう?

特権を自覚しているのに何もしなかったらどうなるだろう?

わからない

 

ヒップホップはいつだって政治的だ

それがこの音楽をつないでいる理由だ

だから、黒人の人々が死んでいるのにもし俺が黙っていたら、

ポリティカリーコレクトでだけあろうとするなら、

俺の声はどうなってしまうだろう?

俺はツアーを組めるしチケットを売れる

ラップの起業家は自分のビジネスを築いた

もし俺が自分の利益のためだけにこれをやっているなら、

俺に始める声をくれたカルチャーのためにやっていないなら、

これは本物じゃない、ただのギミックだ

DIYでやってきた負け犬、人に頼ってるわけじゃない、

けれども、アメリカンドリームが伝えていないのは、

俺は最初から何歩も先を行っていたってことだ*8

 

俺の肌はヒーローに合っている、好かれるイメージだ

アメリカのシステムは俺の音楽を安全だと感じる

俺が果たす役割はそこに完璧に合っている

そして、もし俺がヒーローなら、誰が悪役になるかわかるだろ

白人優位、それはアイダホの白人男のことだけじゃない

白人優位、それは俺が持つ特権を守ってる

白人優位、それは土壌、基盤、セメント、そして俺の家の外にたなびく旗のこと

白人優位、それはこの国の系統、俺たちを無関心にするようデザインされたもの

俺の成功はダレン・ウィルソン*9を無罪放免にしたのと同じシステムの産物

 

俺たちはあんなふうに着飾り、歩き、話し、踊りたい

それなのに傍観しているだけ

俺たちはブラックカルチャーから欲しいもの全てを取り込んだけれど、

黒人の命のために姿を現わすだろうか?

俺たちはあんなふうに着飾り、歩き、話し、踊りたい

それなのに傍観しているだけ

俺たちはブラックカルチャーから欲しいもの全てを取り込んだけれど、

黒人の命のために姿を現わすだろうか?

 

【Interlude 4: Various male and female voices / 男性たちと女性たちの声】

「'Black Lives Matter'というのは、たとえて言うならばこういうことだ。ある区画があって、ひとつの家が火事になったとする。でも消防署はその家に現れず、すべての家に水をかけている。全ての家が大事だからという理由で。彼らは燃えている家に水を向けるべきなんだ、なぜならそこが一番助けを必要としている家なのだから」「黒人の自由を求める闘いという、とても古いトーチの火を私の世代は受け継いだ。でも、これは全ての人の自由を求める闘いでもある。どこかに不公正があるなら、どこにでも不公正があるということなのだから(Injustice anywhere is still injustice everywhere.)」「白人の人々にできるベストなことはお互いに会話することだ。両親や家族と、とても難しくて、とても痛みを伴う会話を」「白人の人々にとって最もクリティカルな質問のひとつは、『あなたはどんなリスクを負うつもりか?より公正な社会を作るために何を犠牲にできるか?』だと思う」

 

【Outro: Jamila Woods / ジャミーラ・ウッズによるアウトロ】

黙っていられるのは贅沢なこと、ヒップホップは贅沢ではいられない
(Your silence is a luxury, hip-hop is not a luxury)

私が私にしたことは、自分のためにやったこと
(What I got for me, it is for me)

私たちがやったのは、自由になるためやったこと
(What we made, we made to set us free)

 

 

感想:贅沢に黙るか?

https://images.rapgenius.com/7b626fd854d98dc1d98b7062ff8b4b0b.930x620x1.jpg

http://genius.com/artists/Macklemore-and-ryan-lewis

マックルモア&ライアン・ルイス↑はシアトル出身のデュオで、10年近いアンダーグラウンドでの活動を経て、2013年にビルボードの年間シングルチャート1位になるなど一気に成功しました。ファーストアルバムを携えて4部門を受賞した2014年のグラミー賞では、同性婚を含む新郎新婦を招いたステージで'Same Love'という同性愛をテーマにした曲をマドンナと共演しながら披露したりもしていました。

 

余談ですが、この年に彼らが受賞したベストラップアルバムという賞には以前に書いた記事でちらっと紹介したケンドリック・ラマーもノミネートされていて、マックルモアは彼に対して「本当は君が受賞すべきだった」とメッセージを送った事を自身のインスタで後日公開して、物議を呼びました。

@macklemore on Instagram: “My text to Kendrick after the show...

 

さらに余談の余談ですが、そのケンドリック・ラマーは今年2016年のグラミー賞でマイケル・ジャクソン以来の多さである11部門にノミネートされて、主要部門は逃したものの5部門で受賞しました。授賞式のライブでは、監獄を模したセットで手錠を付けて歌い始めるという、もんのすごいパフォーマンスをしています。

 

余談が長くなりましたが、何を言いたいかというと、マックルモアは既に成功していて、わざわざ人種問題というデリケートなテーマを扱うのは(少なくともビジネス上は)リスキーです。贅沢に黙っているのが賢い振る舞いのはず。

 

「ここは俺が口を挟むべき場所なのか?」と曲の中で自問していますが、白人である彼がデモに関与したりこうした曲を発表することでネットなどの格好のネタになることも容易に予想できます。

 

実際、ネットのコメントを見ていると批判も多いです。一番簡単に思いつく批判は「白人の特権を歌っているお前も白人じゃんか」というものです。炎上商法だとも取られてます。「9分もかけて、マックルモアは自分が自分であることを謝ろうとしているの?」という反応もありました。この曲の中でマックルモアやBlack Lives Matter運動に対するいろいろな批判が匿名の「声」として途中に入りますが、これはネット上のコメントをある意味先回りして音にして取り込んでいるようにも聞こえます。

 

こうした、草の根の民主的な足の引っ張り合いが盛んなのはアメリカでも他の社会でもおそらく同じで、だからこの曲は人種問題に限らず、何か問題があるときに反応を気にして意見や行動を控えることをテーマにしていると思います。

 

「自由のために行進しているのか、都合がいいからやってるだけなのか?」

「まるで、実際にレイシストになることよりもレイシストと呼ばれることを気にしているみたいだ」

マックルモアは、半ば自分にツッコミを入れるようにそう歌っています。「沈黙もひとつの行動」であり、余計な批判を受けないためには黙っていればいい。でも彼は「どこかに不公正があるなら、どこにでも不公正があるということ」だとしてこんなクソ長い曲を発表しています。

 

だって、ラッパーが黙ってしまったらおしまいだろ?と、マックルモアが言ったかどうかは定かでありませんが、意見を言わずに贅沢な沈黙を保つことが彼にとって最も問題にすべき「白人の特権」の一つなのかもしれません。

 

この曲も収められたマックルモア&ライアン・ルイスのセカンドアルバム、'This Unruly Mess I've Made'(俺がやらかした手に負えないゴタゴタ)は2016年の2月に発売されたばかりです。生まれて間もない自分の娘に「俺だって怖いし、まだ成長途上なんだよ」と語りかける'Growing Up'というほっこりする曲なんかも入っています。

 

さらに補足:
1968年と2015年のアメリカ、1986年と2010年のJALの入社式、ニッキー・ミナージュ

 

最後に、今回取り上げたマックルモアの曲を聞いて連想した記事を3つほど紹介しておきます。

 

1.「1968年と2015年。ブラックミュージックは何を歌ったのか?」

Black Lives Matter運動の背景と歴史的な文脈を音楽評論家の高橋芳朗さんが語っていてとても面白かったラジオ企画です。キング牧師が殺害された1968年と2015年を対比させて、それぞれから3組のアーティストを紹介しています。

 

2.「他人と同じことをして、けっして目立たないこと」

人種問題とは全然違う文脈ですが、他人の反応を気にする社会の行き着く先がどうなるかについて作家の橘玲さんが書いた記事です。2010年の記事ですが、ここで紹介されている1986年と2010年のJALの入社式写真はいつ見てもビビります。

 

3.「スピーク・ユア・マザファッキン・マインド」

ニッキー・ミナージュの発言を引き合いにして、他人の反応を恐れず意見を言うことについて書かれた記事です。LIKTEN(リキテン)やOFF THE BALLという雑誌を作っている編集者の小田明志さんのブログです。

小田さんはこの記事この記事で当ブログを紹介してくれている私の心のマイメンで、上の記事を読んだ頃にちょうど今回のマックルモアの曲を聞いて、なんか似たような話が書けそうだなと思いました。今後もシンジケート関係を築いていきたいです。

 

 

*1:"two cents"は求められていない発言や考えという意味の俗語。日本風に言うと「空気読んでいない」発言や考えのこと

*2:「9」は米国の警官が持つ一般的な銃であるGlock 9mmのこと。「子どもの命をまた奪ったとき」は、Tamir Riceという黒人の12歳の少年が2015年に質問もなく直ちに(on sightで)撃たれて死亡した事件への言及。genius.comの注釈より

*3:Mike Brown:ファーガソン事件の被害者の黒人少年

*4:無抵抗な人間に対する暴力への抗議として、ハンズアップのジェスチャーを示すのがBlack Lives Matterの運動で広く行われている。2015年のグラミー賞でファレル・ウイリアムスもパフォーマンス中にこのジェスチャーを見せた

*5:彼らのヒット曲'Thrift Shop'(中古商品店、古着屋)の歌詞

*6:同性愛をテーマにした彼らのヒット曲のタイトル'Same Love'をファンが間違えて話している

*7:ファーガソン事件の争点として、マイク・ブラウンは警官が止まれと言ったのにそれを聞かず警官に向かって行ったとされており、この女性はそれを言っている

*8:マックルモア&ライアン・ルイスはメジャーレーベルの助けを借りずにDIY精神で活動を続けて売れた。努力次第で誰でも成功できるのがアメリカンドリーム。でも、そもそも立っている位置も道のりも違うぞ↓という意味 ※画像はgenius.comの画像へのリンク

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*9:Darren Wilson:ファーガソン事件でMike Brownを射殺した白人警官。正当防衛で不起訴