新潮社「Foresight」での連載「未翻訳本から読む世界」、第2回が更新されました。
有料記事なので、こっちのブログにはteaser・予告編・オマケ話みたいなものを書こうと思います。
今回取り上げたのは、オマル・エル=アッカドの小説第2作"What Strange Paradise"です。ギリシャの島に流れ着いたシリア出身の少年が主人公です。
難民危機をテーマにした本作についてのインタビューで、エル=アッカドは「すぐに忘れてよいという特権(the privilege of instantaneous forgetting)」に抗うために自分は書いている、と語っています。
例えばアフガニスタンから逃れようとする人々のニュースを見た後、私たちはそれをすぐに忘れる事が許されています。エル=アッカドはそれを一種の「特権的立場」だと呼びます。
日々フィードされ更新されるニュースの過剰摂取は、私たちをキャパオーバーの「無関心」状態にします。または逆に、何にでも脊髄反射で過剰反応してしまう「過関心」の状態をもたらします。そこで欠落するのは、当事者としての感情です。ジャーナリストでもあるエル=アッカドは、無関心を非難するのではなく、小説を使って「他人事ではない、当事者の感覚」を読者に体験させようとしているのだと思います。これは彼のデビュー作「アメリカン・ウォー」にも共通するテーマです。