未翻訳ブックレビュー

世界の本への窓 by 植田かもめ

数字を見たらとにかく割ろう - "Factfulness"の教えの具体例

Factfulness: Ten Reasons We're Wrong About the World ? and Why Things Are Better Than You Think (English Edition)

 

以下の連載で紹介したハンス・ロスリング著"Factfulness"(ファクトフルネス)に関するスピンオフ記事。

 

 

連載ではこの本を「世界に関する基本的なファクトとその見方を知る本として、一家に一冊」と書いたけれど、今週、ビル・ゲイツが、今年(2018)にアメリカの大学を卒業する学生「全員」にこの本の電子版をフリーDLでプレゼントすると決めたそうだ。

 

 

ビル・ゲイツは本書の表紙にも「自分が読んだ中で最も重要な本のひとつ」とコメントを寄せている。なぜこの本をこんなに薦めるのだろう。それは、本書が単に「ファクトが大事」というお題目を並べるだけでなくて、どうすれば人間の「本能」に抗ってファクトを見られるかの具体的な方法を豊富に提示しているからではないかと思う。

 

その中から、誰でもすぐに使えるし、使うべきだと思う例をこの記事では紹介する。名付けるならば「Divide(割れ)の教え」

 

先に結論を書くと教えのポイントは次の2点である。

  1. 数字を孤立させるな。比較しろ
  2. 比較するためには、数字を割れ 

 

Compare(比較しろ)

まず1点目から。私たちは単独の大きな数字だけを見てそれが重要だと反応してしまいがちだ。本書ではこれを「サイズ本能」(size instinct)と呼ぶ。たとえば「世界では年間で420万人の乳幼児が1歳未満で死亡している」という数字だけを聞くとそれが大きい数であるように聞こえる。

 

でも、単独の数字は実は何の意味も持たない。「大きい」と言いたいならば、必ず何か別の数字と比較しなければならない。たとえば去年と比べてどうなのかなど。ロスリングは言う。

 

「絶対に、数字を孤立させるな。ひとつの数字がそれだけで意味を持つと決して信じるな。」

"Never, ever leave a number all by itself. Never believe that one number on its own can be meaningful."

 

そして、比較するために重要なことは、2点目の数字を割ることである。

 

Divide(割れ)

ロスリングは過去の世界経済フォーラム(ダボス会議)でのエピソードを紹介する。EUのある国の環境相が「中国のCO2排出量は米国を既に超えており、インドの排出量はドイツを超えている」と述べた。それに対してインドの出席者が「国全体ではなく、ひとり当たりの排出量で議論をすべき」と反論したという。ロスリングはこれに同意して「中国のCO2排出量が米国よりも多い、という言い方は、中国人全員の総体重は米国人の総体重より多いから中国には肥満が多いと言っているようなもの」と述べている。

 

割合(rates, propotion)は、量(amount)よりも意味を持つ。もうひとつ本書での具体例を紹介しよう。上にも挙げた「年間で420万人の乳幼児が1歳未満で死亡している」というのはUNICEFの2016年のデータだ。そして1950年のデータでは死亡数は1440万人だったという。つまり、死亡数が66年間で1000万人近く減った!さて、乳幼児の死亡は改善したと言えるだろうか。

 

これだけではそう言えない。もし生まれてくる子どもの全体数が減っているならば、死亡する乳幼児の数も減るのが当然だからだ。死亡数ではなく、それを出生数で割った乳幼児死亡「率」を使わないと、過去と現在を比較できない。*1

 

このように、特にサイズが違うグループを比較するときには、量ではなくて割合を使うべき。再び、ロスリングは言う。

 

「ニュース記事で単一の数字を見ると、私にはいつもアラームが起こる。この数字を何と比較すべきか?(中略)この数字を何で割るべきか?(中略)私は割合を比較してはじめて、それが重要な数字であるかを決める。」

"When I see a lonely number in a news report, it always triggers an alarm: What should this lonely number be compared to?""And what should it be divided by?""I compare the rates, and only then do I decide whether it really is an important number."

 

数字を比較したいなら、とにかく割ろう。

本書にはファクトを扱うときのこうした基本的なノウハウが詰まっている。興味を持った方は冒頭にリンクした連載記事もあわせてぜひどうぞ。

 

Factfulness: Ten Reasons We're Wrong About the World ? and Why Things Are Better Than You Think (English Edition)

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追記

同書の日本語版が2019年の1月に出る!(なお、電子版の方が発売が早い)

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*1:ちなみにこの例の場合は、率で見ても1950年の約15%から2016年の約3%に乳幼児死亡率は改善しているという。本書より