未翻訳ブックレビュー

世界の本への窓 by 植田かもめ

2016-01-01から1年間の記事一覧

2016年の未翻訳ブックレビュー

2016年はだいたい月に1冊ぐらいのペースで本を紹介してきたので、月別のまとめを作った。個人的な好奇心の航行記録。達成も未達もない営業月報。取り上げた本の日本語版が出たかの情報も付記した(2016年12月時点)。 ひとつ前にアップしたまとめ記事とかぶ…

俺のグラミー/アカデミー/ピュリッツァー賞2016

去年も書いた、年に一度の自己満足の祭典。2016年に気に入った音楽と映画と本を紹介する。 今年はあんまり厳選しないで、ぶわーっといっぱい作品を並べてみる。音楽が10作、映画が7作、本が20冊ある。ページを分けた方がいいのかもしれないけれど、ASKAのブ…

カタルシスより笑い - エトガル・ケレット未訳短編集

「あんたらが任務にあたるとき、天国で70人のエロい処女が待っていると教えられるってホント?」 「ホントだよ」ナッサーは言った。「それで実際に俺が手にしたものを見てみろよ。ぬるいウォッカだ。」 自殺した人間だけが行き着く世界のとあるバーで、自爆…

憎んでいるのでなく憎まされている

The Attention Merchants by Tim Wu 'Post-truth'(ポスト真実、脱真実、ガセネタ)がオックスフォード辞典のワード・オブ・ザ・イヤー2016に選ばれた話や、WELQなどキュレーションメディアが非公開化した騒動を見ていると、PV数に応じて広告料収入を分配す…

俺にはわかる - I Know Better by John Legend

2016年12月に発表されたジョン・レジェンドのアルバム"Darkness And Light"(闇と光)より、"I Know Better"の対訳です。 前の記事で紹介したラインナップにも加えたい一作。上に貼った公式動画で曲は聴けます。元詞はラプジより。

'各自の生活を美しくしてそれに執着する'ための2016年のブラックミュージック

"All you Black folks, you must goAll you Mexicans, you must goAnd all you poor folks, you must goMuslims and gays, boy, we hate your waysSo all you bad folks, you must go" (黒人たちめ、出て行けよメキシカンども、出て行けよ貧乏人め、出て行…

見えないアメリカをめぐる400年 - White Trash by Nancy Isenberg

White Trash: The 400-Year Untold History of Class in America(ホワイト・トラッシュ:アメリカの語られざる階級の400年の歴史) ドナルド・トランプが大統領選挙に勝利した。このブログでは、人口に占める白人割合の低下を背景とする、共和党の長期的な…

宇宙船を編む(中学英語で) - Thing Explainer by Randall Munroe

2016/04/09 初出 2016/11/23 日本語版発売につき更新 ランドール・マンロー「ホワット・イズ・ディス?:むずかしいことをシンプルに言ってみた」として発売(yomoyomoさんの記事で知った。いつもありがとうございます) Randall Munroe "Thing Explainer: Com…

【追記あり】イ・ラン「神様ごっこ」とミランダ・ジュライ - Playing God by Lee Lang

初出:2016年11月 更新:2018年4月(ライブの感想を追記) 目次 死と哲学についてのエッセイと音楽 神の目線 埋もれる「私」の慰労 【追記】東京でのライブの感想 イ・ラン - 神様ごっこ(Lee Lang - Playing God)

プロは奇跡を起こさない - 「ハドソン川の奇跡」と「夜間飛行」

御年86歳のクリント・イーストウッド監督の新作映画「ハドソン川の奇跡」を観た。ニューヨークのハドソン川にUSエアウェイズ便が不時着して世界中でニュースとなった2009年の出来事を描いた本作は、アクション映画でもパニック映画でもなかった。どんな映画…

ぼくが消えないうちに - The Imaginary by A.F. Harrold

忘れられ、消えてなくなる存在が主人公の児童書。本書の主人公ラジャーは「イマジナリー・フレンド」である。少女アマンダの空想のなかに存在する男の子だ。

【追記あり】Nikes by Frank Ocean

2016/9/18:この記事はもともと歌詞対訳と簡単なコメントだけを載せていたが、いろいろと余談を語りたくなったので追記をした 鬱くしい 追記1:BlondでありBlondeでもある両義性 追記2:Kohhと似た固有名詞の使い方 追記3:異界の声としてのフィルターボ…

翻訳できない世界のことば - Lost In Translation

このブログは未翻訳の洋書を日本語版発売前にかいつまんで紹介するのがメインのブログだけど、以前紹介したイスラエルの作家エトガル・ケレットの本とか、とても好きなものは日本語版が出ていても取り上げたい。 本書「翻訳できない世界のことば」(原題'Los…

【番外】アル・ジャジーラのアジアドキュメンタリー'101 EAST'が面白い

書評と関係ない番外記事。 最近いちばん更新が楽しみなコンテンツの紹介。 リッチな中国人移民がバンクーバーの家賃を引き上げている、フィリピンの指名手配犯には賞金が懸けられている、韓国人は世界一の酒飲みでロシア人の2倍の量飲酒する・・ アル・ジャ…

インターネットだいっきらい - I Hate the Internet by Jarett Kobek

I Hate the Internet by Jarett Kobek もしカート・ヴォネガットがはてな匿名ダイアリーを書き殴ったとしたら。そんな小説が本書'I Hate the Internet'である。 トラルファマドール星人やボコノン教は出てこないけれど、かわりに、マーク・ザッカーバーグも…

【番外】坂本慎太郎「できれば愛を」と2016年の憎しみ

書評と全然関係ない番外記事。 今日(2016/7/26)の日記みたいなもの。 夜に仕事から帰宅したら、予約していた坂本慎太郎の新アルバム「できれば愛を」が届いていたので聞いた。

サマーリーディングリストまとめ2016

"アメリカ人ってよく夏の読書リスト(Summer Reading List)を公開する。そのリストで5冊も10冊も本のタイトルを並べられると、それを読み通せるくらい休暇がとれることに嫉妬を覚えずにいられないが、あいつら本当にそれだけ読んでんのか?" yomoyomoさんも…

「ブロックチェーンは'93年のインターネットと同じ状況にある」- Blockchain Revolution by Don Tapscott

2016/07/19 初出 2016/12/25 日本語版発売につき更新 *ドン・タプスコット「ブロックチェーン・レボリューション ―ビットコインを支える技術はどのようにビジネスと経済、そして世界を変えるのか」として発売 Blockchain Revolution: How the Technology Be…

ヒトになった猿は神へと進化する - Sapiens: A Brief History of Humankind by Yuval Noah Harari

2016/01/24 初出 2016/07/05 日本語版発売につき更新 *ユヴァル・ノア・ハラリ「サピエンス全史」として2016/09/08発売 Sapiens: A Brief History of Humankind 作者: Yuval Noah Harari ジャレド・ダイアモンドの「銃・病原菌・鉄」を超える本、と煽られて…

【和訳】ばか歩きの歌 - The Silly Walk Song

グーグル・バスに石を投げる - Throwing Rocks at the Google Bus by Douglas Rushkoff

Throwing Rocks at the Google Bus: How Growth Became the Enemy of Prosperity 要約 企業の成長(growth)と人間の繁栄(prosperity)とが一致しない状態を「成長の罠」と呼ぶ UberやAirbnbなどの独占型プラットフォームはシェアビジネスじゃなくて単なる…

【番外】もしUSにフリースタイルダンジョンがあったら

書評と何の関係もない、遊びの番外エントリです。 フリースタイルダンジョンをいつもYoutubeで見ていたのですが、権利問題の関係でオフィシャルにはYoutube配信中止になってしまいました。 で、かわりに?Swayのフリースタイル動画を見ていたら、Commonがめ…

【まとめ】エトガル・ケレットと「あの素晴らしき七年」

2016/06/06追記 「あの素晴らしき七年」の訳者の秋元孝文さんがこのブログを紹介してくださいました! 秋元孝文 On the Road to Nowhere: エトガル・ケレット 『あの素晴らしき七年』 書評情報 (注)個人的な「黄色い本」3きょうだい。どれかを好きな人には…

書くための10のルール(というか隠れた真実)by エトガル・ケレット

イスラエルの作家エトガル・ケレットの自伝的エッセイ集「あの素晴らしき七年」に恋しているので、引き続き関連エントリー。 Twitterでケレットによる執筆十ヶ条という記事を紹介している方がいた(この方はケレットのエッセイのうまさを米原万理と並べてい…

架空の賛辞で好きな本を全力プッシュしてみる

目次 前置き:「私の」本 エトガル・ケレット「あの素晴らしき七年」ー本書に寄せられた本当の賛辞 エトガル・ケレット「あの素晴らしき七年」ー本書に寄せられた架空の賛辞

イスラエルでは裏切り者、他の国でもボイコット - エトガル・ケレットインタビュー抄訳

”In Israel people would boycott me saying I’m a traitor, and overseas people would boycott me because I’m Israeli.” 「イスラルでは人々は私を裏切り者と呼んでボイコットし、海外ではイスラエル人だからという理由でやはり人々は私をボイコットする…

未来が見える未訳本リスト

初出:2016.04.28 以後継続的に更新 まだ読んでないけど面白そう、という未訳本がたまってきたのでリスト化しました。*1 アマゾンの商品説明などを頼りに勝手に作成した「こういう本のはず」という簡単な紹介文をそれぞれ付けています。。罪と罰を読まないも…

時には4月に雪が降る - D'angeloによるPrinceトリビュート

POP LIFE

トランプが大統領になれない構造的な理由 - 2016 and Beyond by Whit Ayres

2016/11/9 追記:トランプ勝っちゃいました。3月に書いた以下の記事はそのまま残しておきます。 Whit Ayres “2016 and Beyond: How Republicans Can Elect a President in the New America” ドナルド・トランプは共和党指名を獲得できても大統領選には勝てな…