未翻訳ブックレビュー

世界の本への窓 by 植田かもめ

【追記あり】Nikes by Frank Ocean

2016/9/18:この記事はもともと歌詞対訳と簡単なコメントだけを載せていたが、いろいろと余談を語りたくなったので追記をした

https://images.genius.com/ccc0894094b9a3cbb47a45ec0c69b1f0.1000x1000x1.jpg 

鬱くしい

Frank Oceanの新作EndlessBlondeが美しすぎて(鬱くしすぎて)ゲロ吐きそうっす。

 

下の方に対訳するNikesはBlondeからのリード曲。原詞はラプジの、MVバージョンのものを使用した。MVにしか入っていない声の歌詞も含まれている。同サイトの膨大なアノテーションも参考にしたけれど、隠喩やダブルミーニングだらけだろうから、日本語訳の正確さは一切保証しない。あとヒップホップすぎて訳し方がよくわからんところは訳していない。Apple Musicで見られるこの曲のMVもすごい。。

 

追記1:BlondでありBlondeでもある両義性

さて、アルバムが発売されたときに混乱のタネになっていたけれど、本作のジャケットには"blond"という字が並んでいるが、Apple Musicのアルバム名表記は"Blonde"とeが付いたスペルで登録されている。

Blonde

Blonde

  • Frank Ocean
  • ポップ
  • ¥1600

 

辞書で調べてみると、blondは男性に対して使う言葉で、blondeは女性に対して使う言葉という違いがあるようだ(よい子のみんなは「女性の方がエ(e)ロいから、eが付いている方が女性」と覚えよう)。

 

フランク・オーシャンがどこまで意識的にメッセージを込めているのか分からないけれど、これは「男性でもあり女性でもある」という彼のセクシャリティを表現しているのではないだろうか(彼は初恋の相手が男性であったことを過去にアナウンスしている)。

 

そして、単にセクシャリティの問題にとどまらず、本作は両義性(ambiguity)というテーマに開かれた作品だと思う。アルバム発売のはるか前からTumblrに投稿されていて、Nikesのビデオの冒頭でも繰り返される“I got two versions. I got twooo versions…”というフレーズは、実際にアルバムや曲が2バージョン作られているという意味だけでなく、こうしたテーマも暗示している。LGBTへの排斥などに見られる、単純化できないものを排除しようとするメンタリティへの、フランク・オーシャン流のプロテストなのだと思う。

 

追記2:Kohhと似た固有名詞の使い方

あと、Nikesの歌詞を見ていて、フランク・オーシャンの固有名詞の使い方ってKohhと似てるなーと思ったのだけど、雑誌付録CDのバージョンではKohhが参加しているらしい。物質主義の象徴みたいな固有名詞を過剰に連呼して、逆に物質よりも精神優位を表現するアプローチが似ている気がする。

 

ついでに言うと、見た目やリリックのどギツい(explicit)ところに注意が行きがちだが、KOHHの音楽のテーマって一貫して「精神の自由」だと思う。彼がときどき名前を出すブルーハーツと実は近いかも。
Nikes - KOHH*1

https://www.youtube.com/watch?v=MObhaQzDVAg

 

 

追記3:異界の声としてのフィルターボイス

そして、Nikesの特にビデオバージョンにおけるオートチューンで加工された声の使い方について思ったこと。

 

ビデオバージョンのこの曲では、メインの声に加えて、加工された低音の声が並走する。MVにしか入っていない声で、ラプジではこの2つの声の関係を次のように紹介している。

"The video version of this song features two competing voices (the album version does not), adding a sense of tension and conflict to the otherwise dreamy music."

「ビデオバージョンのこの曲には2つの競い合う声が入っていて、本来ならばドリーミーなはずの音楽に、緊張と不和をもたらしている」

Frank Ocean – Nikes Lyrics | Genius Lyrics

 

Nikesでのもうひとつの声は、まるで悪魔が異界から侵入して喋っているように聞こえる。加工された声を使う音楽はいくらでもあるけれど、フランク・オーシャンの使い方って、音楽的な効果(ロボ声が気持ちいい、みたいな効果)よりも、演出上の効果というか、演劇的な効果を狙っているように聞こえる。

 

音楽じゃないのだけど、古谷実のマンガ「ヒミズ」を個人的には思い出す。現実世界の日常を描いたページの中の一コマに、なんの前触れもなくバケモノが描かれているシーンがあった。むかし読んだある論評では、そのバケモノは登場人物の不安を具現化したものだと解説されていた。彼女ができたりいい事があったりして楽しそうに過ごしている。でも、このままうまくいっていいのかなとなぜか不安に感じる。そこにバケモノが現れて、「そんなうまくいくわけねえだろ」とツッコミを入れてくる。

 

Nikesのビデオバージョンの声もそういうツッコミに聞こえて、享楽的で表面的には華やかなナイトライフの裏に地獄が潜んでいることを暗示するような効果を挙げている。ちなみに、日本だと、別の記事で紹介した坂本慎太郎の近作が似たような使い方をしていると思う。

 

・・と、こんな感じでフランク・オーシャンの新作はいろんな切り口で語れる。Pitchforkのレビューにあった表現を引用すると、彼は自分以外の誰もフォローしないアーティスト(an artist who is following nobody but himselfなのだと思う。

 

*****

Nikes by Frank Ocean

 

[Intro]

Special shoutout to the icon dynasty, Slip-N-Slide Records
Slip-N-Slideレコードにシャウトアウト

I got two versions, I got two versions, I got two versions
バージョンは2つ、バージョンは2つ、バージョンは2つある

 

[Hook]
These bitches want Nikes (This is a setup)
あのビッチたちはナイキを欲しがる(ハメられた)

They looking for a check (Oh my god)
求めているのは小切手(なんてこった)

Tell em it ain't likely (This bitch tryna set me up)
ありえないって言ってやれ(ビッチは僕をハメようとしてる)

Said she need a ring like Carmelo (Hands up, oh my god)
カーメロ・アンソニーのチャンピオンリングのような指輪が欲しいと彼女は言った(お手上げだ)

Must be on that white like Othello (Oh my, it's a real life angel)
白いラインでハイになってるせいだろう、まるでオセロー(本当の天使だ)

 

All you want is Nikes (Yeah)
君が欲しいのはナイキ

But the real ones just like you (Tell these niggas)
ただし本物。君のような(言ってやれ)

Just like me (Tell these guys you ain't basic)
僕のような(言ってやれ、ベーシックの良さがわかってないって)

 

[Verse 1]
I don't play, I don't make time
遊びじゃないし、暇じゃない

(Tell these guys you wear Zanottis, you a hottie, this is heaven on earth)
(ザノッティを履いてるセクシーな奴らに言ってやれ、'地上の天国'だなって)

But if you need dick I got you and I yam from the line
dickが欲しいならやるし、yam(袋いっぱいのドラッグ)だってくれてやる

(But if you're in the party don't bring your shotty Love everybody)
(でもパーティーに来るならショットガンは持って来るな、みんなを愛せ)

 

Pour up for A$AP (rest in peace)
A$AP Yamsのために飲もう(レスト・イン・ピース)

RIP Pimp C (rest in peace)
Pimp CにRIP(レスト・イン・ピース)

RIP Trayvon, that nigga look just like me
僕に似たニガー、トレイヴォーン・マーティンにRIP

Woo, fuckin' buzzin', woo!
(Remember one thing, remember one thing: don't take no photos in the party)
(ひとつ覚えておけ、パーティーで写真を撮るな)

 

That my little cousin, he got a little trade
僕のいとこはドラッグを取引した

His girl keep the scales, a little mermaid
彼のガールフレンド、リトルマーメイドが重さをはかる

(That's rule number one
Rule number two: don't take no photos in the party)
(それがルール1。ルール2、パーティーで写真を撮るな)

We out by the pool, some little mermaids
僕とリトルマーメイドはプールから出る

Me and them gel like twigs with them bangs
髪を固めるジェル FKA Twigsみたいな前髪

(Rule number three: I got one left)
(ルール3、一発だけ残っている)

Now that's a real mermaid
本物の人魚だ

You been holding your breath weighted down
息を止めて、水に沈んで・・

 

(If you in the-) Punk madre, punk papa
パンクな母親、パンクな父親

He don't care for me
彼は僕に気を使わない

(Special shoutout to them live niggas at Rap-A-Lot records)
(Rap-A-Lot recordsのニガーたちにシャウトアウト)

But he cares for me
でも彼は僕を気にかける

And that's good enough
それで十分だ

(I've been working on my bod, I feel hot)
(僕は体を鍛えている、ホットな気分だ)

 

We don't talk much or nothin'(If we in the- holla at ya gwalla)
僕たちはあまり多く、または全く話さなかった

But when we talkin' about something(Oh my god, hold up)
でも何かを話したときには

We have good discussion
いい議論ができた

(Tell these basic bitches we don't wear Nike)
(あのビッチに言ってやれ、僕らはナイキを身につけない)

I met his friends last week, feels like they're up to something
彼の友だちに先週会った、何かを企んでいるみたいだった

(You guys are naughty, you a hottie, hold up)
(お前たちはヤバくてセクシーだ) 

That's good for us
それはいいこと


[Verse 2]

We’ll let you guys prophesy
お前たちに予言をさせてやる

We’ll let you guys prophesy
お前たちに予言をさせてやる

 

We gon' see the future first
僕たちは最初に未来を見る

We’ll let you guys prophesy
お前たちに予言をさせてやる

We gon' see the future first
僕たちは最初に未来を見る

Living so the last night feels like a past life
昨日の夜なんてまるで過去の人生

Speaking of the, don’t know what got into people
何が彼らに起こったのかわからない

Devil be possessin homies
悪魔が仲間を奪っていった

Demons try to body jump
悪魔が飛び出ようとしている

Why you think I'm in this bitch wearing a fucking Yarmulke
クソったれのYarmulke(ヤルムルケ。ユダヤ教徒が教会で被る小さな帽子)なんて身につけるわけないだろ

 

Acid on me like the rain
雨みたいに降り注ぐアシッド(LSD)

Weed crumbles in the glitter
マリファナがキラキラと砕け散る

 

Rain, glitter
雨、きらめき

We laid out on this wet floor
濡れたフロアに横たわる

Away turf, no Astro
遠くの芝生、人工芝じゃない

Mesmerized how the strobes glow
ストロボの輝きに魅了される

Look at all the people feet dance
踊る人たちの足が見える

 

I know that your nigga came with you
君と一緒に来たけれど

But he ain't with you
彼は君のそばにはいない

 

We only human and it's humid in these Balmains
僕たちはただの人間、バルマンのジーンズがムレている

I mean my balls sticking in my jeans
タマがジーンズにくっついてるってこと

 

We breathin pheremones, Amber Rose
フェロモンを吸っている、アンバー・ローズ

Sippin' pink-gold lemonades
ピンクゴールドのレモネードを啜ってる

Feelin'
そんな感じ

 

[Outro]

I may be younger but I'll look after you
年下だけど面倒見よう

We're not in love, but I'll make love to you
愛してなくても君としよう

When you're not here I'll save some for you
君がいないならとっておこう

 

I'm not him but I'll mean something to you
僕はあいつじゃないけれど君の何かになるだろう

 

I'll mean something to you
僕は何かを意味するだろう

I'll mean something to you
君にとって意味ある何か

 

You got a roommate he’ll hear what we do
君のルームメイト、あいつも僕たちがヤる声を聞く

It’s only awkward if you’re fucking him too
あいつともヤっているならダサいだけだけど

*1:

いつ聞けなくなるかわからないのでKOHHのパートのリリックを勝手に記しておく

ひとりの男

たくさんかわいい女の子

誰かのことを誰も縛れやしない

他人の心

まあ飲みたいならお酒でも飲もう

彼女がいたり彼氏がいたり

気の合っちゃう人間ふたり

しょうがない

男たちと女たち

去る者追わず、来る者選ぶ

それだけの話

今、しか、ない、時間

大事にしな

何億万人もいい人ならいるよ

あの子がまたモデルの子に嫉妬

でも好きなら好き

無理なら無理だし次から次に

類が友を呼んでくれるいつも

たまには離れてみるのも必要

自由にする まるでパリス・ヒルトン