小袋成彬「分離派の夏」が終わらせてほしい、J-POPが確認しがちな事
Lonely One feat. 宇多田ヒカル - 小袋成彬 on Apple Music
書評じゃない番外記事。
まだ全貌を聴いていない音楽への期待。
サマリすると、小袋成彬の音楽はJ-POPが確認しがちな「みんな同じ空の下つながっていてひとりじゃない」的なメンタリティから自由なので好き、という話。
ひとりになりた(くな)い
宇多田ヒカルがプロデュースした小袋成彬(おぶくろなりあき)のデビュー曲"Lonely One"がとても良い。
Lonely Oneは、
"I don't wanna be the lonely one"(引用者注:ひとりになりたくない)
と始まる。
でも、内省的な音楽なので、むしろ「ひとりになりたい」と求めているようにも聞こえる。これはパーソナルな領域を守ろうとする音楽の系譜にあって、既に言われてそうだけど、日本のフランク・オーシャン現る、感がある。
*フランク・オーシャンについての参考過去記事
韓国のシンガーソングライターのイ・ランは「私が思う芸術の目的は'慰労'にある」と言っている。それに乗っかると、人を慰労するやり方にはいろいろあって、「みんなと同じだから大丈夫」となぐさめる人もいれば「みんなと同じじゃないけど大丈夫」となぐさめる人もいる。
*イ・ランについての参考過去記事
で、この「みんなと同じだから大丈夫」のメンタリティーって、J-Pop(とひとくくりにするのは乱暴だろうけど)が確認しがちなことだと思う。
典型的な紋切型表現として「同じ空の下」で生きていると確認したり「同じ空を見上げ」たり「みんな空の下」でひとりじゃないと確認しがち。
具体例は各位でおググりいただくとして、この紋切型表現って絶滅すればいいのにと思う。
超ソーシャル
先日の記事で紹介した"The Enigma of Reason"という本に、hypersocial(超ソーシャル)という概念が出てくる。
社会性があることで人間は協力が可能になる。でも、本来はエネルギー源になる糖質を過剰摂取するとそれが血液や神経を傷つけるように、あまりにもソーシャルすぎる(hypersocial)ことが個人を傷つけることもある。
SNSなどが発達した「ソーシャルすぎる」社会で「みんな同じだから大丈夫」というメッセージを出すことって、ただの同調圧力ではないか。
そう考えると、音楽に限らず小説でも映画でも、
- みんな同じだと確認をして
- それが何らかの救いになる
というモチーフって、有害でしかないと思うのだ。
で、話を小袋成彬に戻すと、「分離派の夏」と名付けられた4月に出るアルバムは、そんなモチーフから自由なのではと思わせる。
かわりに、
- 超ソーシャルで接続過剰な社会からの切断
- 他人の声への同化より、自分の声の分離
- 同じ空の下でつながるより、自分の世界をプロテクト
みたいな事が表現されていればいいな、と勝手に期待する。
おまけ:Lonely Oneからの音楽7選
最後におまけ。Lonely Oneを気に入った人はこれも好きなんじゃないか、という私的リスト。
なお、Apple Musicで本人による「分離派の冬」というプレイリストが公開されていてこれもすごく良い。本人のラジオ番組でも良い音楽いっぱい流れている。
MUSIC HUB : J-WAVE 81.3 FM RADIO
1. Frank Ocean - Blonde (2016)
*本文でも言及した現役では別格の人
2. 宇多田ヒカル - Fantome (2016)
*プロデューサー。小袋成彬のコーラス参加曲「ともだち」収録
3. Rhye - Blood (2018)
*R&Bを入り口にしてその先に広がりがある、という共通点
4. N.O.R.K. - ADSR (2014)
*過去のユニット時代の作品
5. Sufjan Stevens - Carrie & Lowell (2015)
- アーティスト: Sufjan Stevens
- 出版社/メーカー: Hostess Entertainment
- 発売日: 2015/03/31
- メディア: CD
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*自分の母親とその再婚相手の名前を冠したパーソナルな作品
6. イ・ラン - 神様ごっこ (2016)
*本文でも言及したイ・ランの名作。配信もあるけど、日本盤CDには70p超のエッセイ付き
7. Massive Attack - Protection (1994)
- アーティスト: Massive Attack
- 出版社/メーカー: Virgin Records Us
- 発売日: 1994/09/26
- メディア: CD
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*この一作だけ20世紀の音楽。パーソナルな領域を守る、その名も「プロテクション」というアルバム