「ちょっとしたことでうまくいく」と、個人的な英語習得経験
当たり前を言語化して学ぶことの価値について。
読書猿さんの以下ツイートで知った本を入口にして考える。
こうした、当たり前過ぎて我々が言語化していない行動について、改めて丁寧にできるように解説してある書物は、重要だし役に立ちますね。 https://t.co/oTDZlkTlYl
— 読書猿『問題解決大全』4刷、『アイデア大全』8刷 (@kurubushi_rm) 2018年2月7日
走り方を学ぶように
本書「ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に働くための本」は、発達障害を持つ人やその傾向がある人がオフィスでの仕事をどうこなすかを説明する本。
まず、タイトルがいい。何かがうまくいくかいかないかは、ちょっとしたことをするかどうかで決まる時が多いから。
具体的なツールやTipsも数多く紹介されているけれど、 それよりも、この本が面白いのは、読書猿さんのツイートにもあるように、「当たり前過ぎて言語化されていないこと」を言語化しようとしている点にある。
たとえば「仕事の締切が守れない」という項目では、先延ばし傾向の原因として、そもそもの「時間感覚の乏しさ」を挙げる。つまり、「12時までにやっておいて」と言われても、急げばいいのかゆっくりできるのかがうまく実感できない。
こんな地点にまでさかのぼって問題の原因を考えた本はあまりないのではないか。たとえば「締め切りは来月の4日です」と言われれても、あと何日、という認識が薄い。だから、時間感覚を自分に実感できるものにするよう、カウントダウン方式でタスク管理する、といった解決法が生まれる。
誰でも、文章を書ける。でも世の中には文章術の本が数多くある。誰でもモノを考える。でも思考術の本は数多くある。なぜか。それらが「当たり前にできること」すぎて、「正しく行う方法」を教わる機会が少ないからだ。
サッカー日本代表の岡崎慎司選手は、「走り方」を改善することで選手として飛躍的な成功を収めたという。
この本は、正しい走り方をイチから学ぶように、仕事で必要なオペレーションを学ぶ本だ。締切を守る、予定やスケジュールの段取りをする、会議についていく、「自分で考えろ、と、わからなかったら質問しろ、の境界線」で困らずに相談をする・・
当たり前のことをできない人にとって、こうした本は重要だ。
でも、それだけではない。
当たり前のことを言語化することは、学習におけるカベを破ることにもつながると思う。「いくら見本を真似してもこれ以上は上達しない」という、見本のカベを理論で破れる。
個人的な英語習得経験の例
ここからは個人の感想です。このブログは未翻訳の洋書をレビューするのが中心で、管理人は英語で本を読むし仕事でも英語を話す。でも帰国子女だったり留学経験があるわけではない。以前、仕事で数ヶ月米国に滞在した際に「海外に住めば英語を習得できる、ということは自分には起こらない」と悟って、帰国後に勉強の仕方を変えて習得をした。
具体的には、「英語耳」という本を使って、発音の構造と仕組みをいちから学び直した。
- 作者: 松澤喜好
- 出版社/メーカー: アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2010/08/12
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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同書の趣旨を簡単に説明する。アルファベットが26文字であることは誰でも知っている。でも、英語に母音がいくつあるか、子音がいくつあるかすぐに答えられるだろうか。数え方にもよるけど同書では母音は22個ある、としている。対して、日本語の母音は5つ。22個のものを5個に置き換えるから、聞き取れない。逆に、もし母音が1つしかない国の人に「ありがとう」と言ったら、「あらがたあ」としか伝わらない。
海外にいると(日本にいても)英語をシャワーのように浴びる、という学習はできる。でも自分にはそれはあまり効果がなかった。一方で、発音の構造を学んだら学習効率が大きく上がった。ことわっておくと、もともと英語が苦手だったわけではない。でも、野球で例えると、なまじヒットを打てているから、バッティングフォームについて考えたり見直したりしていない状態だったのだ。
でも、その状態だと壁にぶつかる。ある状態の脳にとって、「入力データを大量に食わせれば学習ができる」というのは幻想だと思う。見本データを何万件入力してもディープにラーニングできないし、何時間聴き流しても、スピードなラーニングもできない。必要なのは見本よりも理論だからだ。
地球人になれないなら火星の人類学者に
もちろん、理論なんか学ばなくても「当たり前のように」何かを習得できる人もいる。語学で言えば、単に海外に住んでいるうちにいつの間にか身についた、という人も多いだろう。子どもとかは特にそう。
地球人、学習能力マジすげえ。
でも、そうできない人は「火星の人類学者」を目指す道がある。
火星の人類学者―脳神経科医と7人の奇妙な患者 (ハヤカワ文庫NF)
- 作者: オリヴァーサックス,Oliver Sacks,吉田利子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2001/04/01
- メディア: 文庫
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オリヴァー・サックスのこの本に登場する自閉症の動物学者は、人間同士の「当たり前の」交流や感情を理解できない。かわりに、人間の行動を理論によって理解して予測する。まるで火星で異種の生物を研究しているようだから、「自分は火星の人類学者のような気がする」と漏らす。
当たり前の感覚に頼らず(頼れず)、言語化された「ちょっとしたこと」を積み重ねてうまくいくようにしている人は、みんな火星の人類学者なのかもしれない。
對馬陽一郎著、林寧哲監修「ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に働くための本」は、2017年5月に発売された一冊。
第2弾も2018年3月に発売される模様。