未翻訳ブックレビュー

世界の本への窓 by 植田かもめ

2017-01-01から1年間の記事一覧

2017年の未翻訳ブックレビュー

前の記事に続いて今年(2017年)のまとめ。 だいたい月に1冊のペースで未訳本(や翻訳本)を紹介してきたので、過去記事を数珠つなぎに振り返ってみる。

俺のグラミー/アカデミー/ピュリッツァー賞2017

毎年恒例、年に一度の自己満足の祭典。俺のグラミー/アカデミー/ピュリッツァー賞。 2017年に管理人が気に入った音楽と映画と本を紹介する。今年で早くも3回目。ではどうぞ。

センス・オブ・ワンダーの最新地図 - A New Map of Wonders by Casper Henderson

「アップルパイを作りたいなら、まずは宇宙を創造しないと」(カール・セーガン) "If you want to make an apple pie, said the astronomer Carl Sagan, you must first invent the universe. " 何かに驚いて感動する。そんな「センス・オブ・ワンダー」を…

ワインが好きなふりをしなくてよい理由 - The Wine Lover's Daughter by Anne Fardiman

The Wine Lover's Daughter オーガズムに達したふりをする女性のように、自分はワインに満足していると装ってきた。 エッセイストのアン・ファディマンはそう語る。本書"The Wine Lover's Daughter"(ワイン愛好家の娘)は、彼女の父との思い出の記録である…

一般向け機械学習本の決定版 - The Master Algorithm by Pedro Domingos

Pedro Domingos - The Master Algorithm このブログで何回も名前を出しているユヴァル・ノア・ハラリ「ホモ・デウス」は、人間の全ての活動はアルゴリズムにいずれ置き換え可能だろうと説く本だった。 ハラリはさらにそれを歴史の文脈に位置付ける。神が中心…

「日の名残り」めちゃ笑えるからみんな読んで

本人は笑わせるつもりゼロ、でも他人が見ると妙に可笑しい、そんな人って誰のまわりにもけっこういるのではないか。 ノーベル文学賞受賞を機に、長らく積ん読にしていたカズオ・イシグロ「日の名残り」を読んだら、笑えて感動する傑作だった。 目次 上品で静…

早稲田文学増刊女性号への私的トリビュート

早稲田文学増刊 女性号 川上未映子責任編集、2017年9月発売の「早稲田文学増刊・女性号」を読んだ。掲載されている新旧洋邦の小説、詩、短歌、エッセイ、対談の作者がオール女性。500ページ超の分厚さで、辞書みたいとも言えるけど、より印象が近いのは雑多…

【お知らせ】豊崎由美コラム大賞@シミルボンに入賞しました

お知らせです。 書評投稿サイトのシミルボンが開催した豊崎由美コラム大賞「○○にオススメしたい3冊」で入賞しました。

【抄訳と雑感】ゼイディー・スミスがSNSを遠ざける理由

小ネタ記事。 英国の作家ゼイディー・スミスがソーシャルメディアについて語った英ガーディアン誌の記事を抄訳した。管理人の雑感付き。短いので、気に入ったらぜひ原記事も読んでいただきたい。ではどうぞ。

失敗していいよと言ってくれる会社 - An Everyone Culture by Robert Kegan and Lisa Laskow Lahey

An Everyone Culture: Becoming a Deliberately Developmental Organization 2016/09/11 初出 2017/09/01 日本語版発売につき更新 ロバート・キーガン、 リサ・ラスコウ・レイヒー「なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか 」として2017/8/7発売 組織に属する多…

【和訳】フランク・オーシャンの夏への愛を語る / Summer Remains

目次 フランク・オーシャンの歌詞は俳句 和訳:フランク・オーシャンの夏への愛 和訳:Summer Remains 関連過去記事まとめ 書評じゃない番外記事。 フランク・オーシャンの歌詞を解説した3分ほどのWeb動画ニュースが面白かったので内容を和訳してみた。つい…

戦争はいつも海の向こうで始まるか - American War by Omar El Akkad

Omar El Akkad - American War 2017/07/17 初出 2017/08/25 日本語版発売につき更新 オマル・エル=アッカド「アメリカン・ウォー」として2017/8/29発売 2074年、第2次南北戦争勃発。 本書Amrican Warは、中国とイスラムが2大勢力となった20世紀後半の世界で…

ちょっと今から人間やめてくる -「すごい物理学講義」とホモ・デウスの話

Carlo Rovelli - Reality Is Not What It Seems: The Journey to Quantum Gravity カルロ・ロヴェッリ - すごい物理学講義 人間が人間であることはなんてすばらしくて、人間が人間でしかないことはなんてショボいのだろう。 以前「未来が見える未訳本カタロ…

ミチコ・カクタニと、ルー・リードの、テジュ・コールのニューヨーク

目次 ミチコ・カクタニについて イントロ訳:ルー・リードへの追悼文 イントロ訳:テジュ・コール「オープン・シティ」のレビュー おわりに ミチコ・カクタニについて Michiko Kakutaniという人がいる。日系2世の米国人である彼女は、おそらく英語圏では世界…

ジョブスがいればiPhoneが生まれるか - The One Device by Brian Merchant

The One Device: The Secret History of the iPhone スマホかセックス、あきらめるならどちらにするか? 米国のIT企業Delvvが「3ヶ月スマホを使えないのと同じ期間セックスができないのとどちらを選ぶか」を18歳以上の男女に尋ねたところ、約3割がセックスを…

ゆるふわギャングと好奇心

ゆるふわギャング - Mars Ice House 書評じゃない番外記事。 "Escape To The Paradise"という曲を聴いて以来、ゆるふわギャングが好きだ。おっさん向け音楽雑誌とかにありそうな言い回しをすると、これって「2017年の'ナイトクルージング'」なんじゃないかと…

ドイツ映画「ありがとう、トニ・エルドマン」が描くグローバルビジネスというサブカルチャー。そして、ラストダンスは私に

【予告編】映画『ありがとう、トニ・エルドマン』 2017年のアカデミー外国語映画賞にもノミネートされたドイツ映画「ありがとう、トニ・エルドマン」がめちゃくちゃ良かった。 簡単にあらすじを説明すると、グローバル企業でキャリアを重ね故郷のドイツを離…

想像力は無限ではない? ファスト&スローを書かせた理論と友情 - The Undoing Project by Michael Lewis

2017/01/22 初出 2017/07/07 日本語版発売につき更新 マイケル・ルイス「かくて行動経済学は生まれり」として2017/7/14発売 The Undoing Project: A Friendship that Changed the World ある男がいたとする。彼は90歳近い高齢で、癌が全身に転移している。助…

【取材協力しました】サイゾー17年7月号「日本の"裏"を知る本100冊」

お知らせです。 月刊サイゾー7月号の特集「日本の"裏"を知る本100冊」内の「ハリウッドで『原作改変』が横行する理由」という記事に取材協力しました。 「映画化間近な未翻訳小説」というお題の取材に答えて6冊ほどコメント付きで選書したものを、1ページの…

AIは人間に興味がない - To Be a Machine by Marc O'Connell

Marc O'Connell - To be a Machine: Adventures Among Cyborgs, Utopians, Hackers, and the Futurists Solving the Modest Problem of Death 「人間は最適化されていないシステム(suboptimal system)だ」 身体のサイボーグ化、脳の冷凍保存、意識のアップ…

フランク・オーシャンは恋人をお前と呼ぶか - 翻訳における人称の屈折や揺らぎについて

小ネタ記事。英語の一人称や二人称を日本語にどう訳すかは複雑になりつつあって、それは「男らしさ」や「女らしさ」といった概念が揺らいでいることにも関係しているのではないか、という説。 前の記事でもちらっと紹介した、米国社会で黒人がどう生きるかを…

XにおいてYであることについての本(そして自分語りはなぜつまらないのか論)

Omar Saif Ghobash - Letters to a Young Muslim 仮説。世の中のエッセイはすべて「XにおいてYであること」についての文章であると分解できる。 Xは外部環境のことで、時代や国や所属する組織や家族などを指す。 Yは内部環境のことで、性別や人種や年齢や職…

【番外】集中できない人のための読書法

書評じゃない番外記事。 読書に集中できない人あるある満載の上の記事がとても面白かった。 ただ、じゃあ読書に集中できない人はどうすればよいかの話は(ネタ記事だから)無かったので、対策案を書いてみた。さらに、ドラマとかマンガとかあるのになぜ本な…

未来が見える未訳本カタログ2017

約1年振りに、今後ブログで取り上げるかもしれない未訳本をまとめて紹介する。

NYタラレバ娘、あるいは、大人になれば - All Grown Up by Jami Attenberg

美大に行って、嫌いになって、中退をして、ニューヨークへ。(You're in art school, you hate it, you drop out, you move to New York City.) そんな書き出しで始まる本書All Grown Upの主人公アンドレアは、40歳になろうとしている独身女性である。 ある…

黄色い本には当たりが多い

K-POPでも韓流ドラマでもない、韓国の文学と音楽と映画

なんか気が付いたら韓国の作品がすごい。 まとめてみた。 目次 ハン・ガンの文学 イ・ランの音楽 ナ・ホンジンの映画 まとめ:ヘル朝鮮

現代ほど辞書が読まれるべき時代は無い

Shooting an Elephant: And Other Essays by George Orwell (Penguin Modern Classics) 小ネタ記事。 言いたいことはタイトルの通り。 最近よく読んでいるBook Riotというサイトで、ジョージ・オーウェルのエッセイを引用しながら「ポスト真実」時代の辞書の…

彼や彼女を好きになれるかはどうでもいい

小ネタ記事。 個人的に「キャラ萌え」という文化に昔からあまりなじめないのだけど、前の記事↓で紹介したイーユン・リーのエッセイ本に似たような話を見つけた。

地獄では死が希望になる - イーユン・リー初エッセイ本

Dear Friend, from My Life I Write to You in Your Life by Yiyun Li 「あなたの気持ち、分かるよ」 「あなたのためを思って言っている」 「ネガティブに考えないでいい事に目を向けて」 そんな言い方をされて、嬉しくなるのではなく、イラっとしたり不快に…