ジュノ・ディアスとMeToo - その1 - 新作絵本の書評
本書"Islandborn"の主人公ローラが通う学校の子どもたちは、皆どこか別の場所の出身だ。
「みんながもともといた国のことを絵に描こう」
先生がそう課題を出したとき、他の生徒は色めきだったがローラは困ってしまう。生まれてすぐに故郷の「島」を離れたから、彼女にはその場所の記憶がない。猫を探すように頭の中で「島!」と呼びかけてみても、猫が見つからないのと同じように何も浮かばない。
だから彼女は、自分の姉や家族、近所の人に「島」について聞いて回る。詩のような浜辺(beach poems)、いるかやくじらのサーフィン、大きなフルーツ、空気よりもあふれる音楽(more music than air)。コミュニティの記憶をつなぎあわせて、彼女の中で「島」が形作られていく。
複数の世界を生きる
本書は、ドミニカ出身の米国人作家ジュノ・ディアスによる初の絵本だ。ピュリッツァー賞を受賞したオスカー・ワオの短く凄まじい人生 で知られる彼にとって、本書の作成は20年越しの約束だったらしい。「自分たちのことを書いてほしい」とgoddaughter*1から頼まれて、移民が主人公となる本を書こうとしたとディアスはインタビューで語っている。
*トレヴァー・ノアのトークショーでのインタビュー。ディアスに「書いて」と頼んだ子どもたちはすっかり大きくなって既に親になる年齢らしい
そして、レオ・エスピノサによるカラフルなイラストで彩られた「島」についての記述は美しいけれど、読んでいるうちにひとつの疑問がわいてくる。そんなに良い場所なら、この人たちはなぜ離れたのだろう。やがてローラはひとりの老人を訪ねる。誰も「かいぶつ」について話していないのか、と老人は語り始める。本作には、「オスカー・ワオ〜」でも描かれていた、ドミニカのトルヒーヨ独裁政権の暗い時代への暗示もあるのだ。
ジュノ・ディアス著"Islandborn"は2018年3月に発売された一冊。複数の世界を生きることが当たり前の登場人物を描く絵本。日本語版「わたしの島をさがして」も9月に発売された。
ジュノ・ディアスについての「疑惑」
さて、書評としての記事はこれで終わりだけど、実は本書が出版されてから数ヶ月後に、ジュノ・ディアスに対するセクハラ疑惑が起こっていた。別記事でその経緯を紹介して、「作品と作者をどう分けるか」みたいなことを考えてみようと思う(または、考える意味があるのかを考えてみようと思う)。というわけで、続く。
↓次の記事
- 作者: ジュノ・ディアス,Junot Diaz,レオ・エスピノサ,Leo Espinosa,都甲幸治
- 出版社/メーカー: 汐文社
- 発売日: 2018/09/01
- メディア: 大型本
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*1:洗礼に立ち会った名付け子のことを指すキリスト教での呼び名