未翻訳ブックレビュー

Lost-In-Translation Book Review. 日本語版発売を待たずに本を紹介するページです

一般向け機械学習本の決定版 - The Master Algorithm by Pedro Domingos

The Master Algorithm: How the Quest for the Ultimate Learning Machine Will Remake Our World

Pedro Domingos - The Master Algorithm

 

このブログで何回も名前を出しているユヴァル・ノア・ハラリ「ホモ・デウス」は、人間の全ての活動はアルゴリズムにいずれ置き換え可能だろうと説く本だった。

 

 

ハラリはさらにそれを歴史の文脈に位置付ける。神が中心の時代から、神を解体して生まれた人間中心主義の時代があり(←いまココ)、人間を解体する「データ主義」の時代がやがて来るだろうと。簡単に表にすると以下の通り。

 

神中心

人間は神の創造の産物に過ぎない

人間主義
Humanism

神は人間の想像の産物に過ぎない

データ主義
Dataism

人間の想像もアルゴリズムの産物に過ぎない

 

ハラリの見立ては挑発的でめちゃくちゃ面白いのだけど、ひとつ腑に落ちない点もあった。じゃあ人間を置きかえるアルゴリズムって具体的に何?というのが全く不明なのだ。アルゴリズム=「物事を処理する手順、方法」と定義してしまえば、そりゃ全宇宙の営みがアルゴリズムの産物だろう。

 

そこで読んだのが本書、

The Master Algorithm: How the Quest for the Ultimate Learning Machine Will Remake Our World(マスター・アルゴリズム:究極の学習マシーンはいかに世界を再構築するか)

である。

 

ワシントン大の教授で機械学習の専門家である著者のペドロ・ドミンゴスが本書で探求するのは、どんな目的にでも適用できる究極のアルゴリズムだ。それが存在するなら「過去、現在、未来についてのあらゆる知識を、データから導き出す」ことができる、というのが本書の中心仮説である。

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「日の名残り」めちゃ笑えるからみんな読んで

日の名残り (ハヤカワepi文庫)

 

本人は笑わせるつもりゼロ、でも他人が見ると妙に可笑しい、そんな人って誰のまわりにもけっこういるのではないか。

 

ノーベル文学賞受賞を機に、長らく積ん読にしていたカズオ・イシグロ「日の名残り」を読んだ。笑えて感動する傑作だったのでこの記事はその話。ノーベル財団による公式インタビューも少し紹介する。

 

目次

  • 上品で静謐、なだけの作品ではない
  • 抑制されたユーモア
  • 品格という自己欺瞞
  • スモールワールドとビッグワールド 
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早稲田文学増刊女性号への私的トリビュート

早稲田文学増刊 女性号 (単行本)

早稲田文学増刊 女性号

 

川上未映子責任編集、2017年9月発売の「早稲田文学増刊・女性号」を読んだ。掲載されている新旧洋邦の小説、詩、短歌、エッセイ、対談の作者がオール女性。500ページ超の分厚さで、辞書みたいとも言えるけど、より印象が近いのは雑多な書き手のマンガ雑誌。石垣りん、今村夏子、ヴィンセント・ミレー、チママンダ・アディーチェ、松田青子、ルシア・ベルリンなどなどシビれる執筆者のラインナップは公式ページで見られる。

 

そして、このブログで過去に紹介した作家も同誌内に複数登場しているので、以下に関連過去記事のまとめを作ってみた。おこがましい言い方だけど、とてもヴァイブスが近いと感じている。ヴァイブス/vibes、というのは「ノリ」とか「雰囲気」とか訳されるけれど、ここでは「感受性」という意味で使っている。

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【抄訳と雑感】ゼイディー・スミスがSNSを遠ざける理由

 

小ネタ記事。

 

英国の作家ゼイディー・スミスがソーシャルメディアについて語った英ガーディアン誌の記事を抄訳した。管理人の雑感付き。短いので、気に入ったらぜひ原記事も読んでいただきたい。ではどうぞ。

 

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みんな嘘つき - 検索データの新科学

Everybody Lies: The New York Times Bestseller

 

人に言えない秘密もグーグルには言える。

 

本書"Everybody Lies: Big Data, New Data, and What the Internet Can Tell Us About Who We Really Are"は、元グーグルのデータサイエンティストであるSeth Stephens-Davidowitz(以下ダヴィドウィッツ)による初の著書である。タイトルを訳すと「みんな嘘つき:ビッグデータ、新しいデータ、そしてインターネットが教える本当の私たち」となる。

 

データ科学がテーマである本書のあとがきを"How many people finish books?"(何人が本を最後まで読むのか?)と題したり、ダヴィドウィッツの語り口は洒脱で軽妙だ。でも、グーグルトレンドなどオンライン上のデータを用いて彼が分析する対象は、性的嗜好、人種差別、人工中絶、うつ病などの重いテーマが多い。それは、こうした領域の調査ではみんな嘘をついているからだ。

 

目次

  • 人が調査に嘘をつくとき
  • 検索ウインドウは教会の懺悔室
  • 新しいデータ科学の効用
  • まとめ:社会科学は本当の科学になるか

 

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失敗していいよと言ってくれる会社 - An Everyone Culture by Robert Kegan and Lisa Laskow Lahey

An Everyone Culture: Becoming a Deliberately Developmental Organization

An Everyone Culture: Becoming a Deliberately Developmental Organization

 

2016/09/11 初出

2017/09/01 日本語版発売につき更新

ロバート・キーガン、 リサ・ラスコウ・レイヒー「なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか 」として2017/8/7発売

 

組織に属する多くの人間は、本来の仕事とは別に、誰もお金を払ってくれないもうひとつの仕事をしている。自分の弱点を隠し、周囲からよく見られるように振る舞うという仕事だ。

 

もし、膨大なリソースを奪っているこの仕事から個人を解放できたらどうなるだろう。ハーバード大教授のロバート・キーガンとリサ・レイヒーが本書で提唱する新しい組織のあり方、それがDDO = Deliberately Developmental Organizationである。

 

DDOの適切な訳語は分からないけれど「自発的に成長する組織」としておく(2017.9.1追記。日本語版では「発達指向型組織」と訳出)。業種の異なる3社のケース・スタディを中心に、本書はそのコンセプトを説明する。

 

DDOとは何か。いきなりだけど、はっきりした定義はない。DDOは組織形態でも社内制度でもITシステムでもなく、カルチャーだからだ。個人が最も成長するときに、組織も最も繁栄する。そう信じるカルチャーである。

 

目次

  • DDOの構成要素:Edge, Home, Groove 
  • でも、儲からないんじゃないの?
  • 技術的な課題と適応を要する課題
  • 幸福とは状態ではなく成長のプロセス
  • 「御社の社風にひかれました」

 

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