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未翻訳ブックレビュー

Lost In Bookish Rambles. 日本語版発売を待たずに本を紹介するページです

データが正義を殺すとき。'数学'破壊兵器とは - Weapons of Math Destruction by Cathy O'Neil

BUSINESS & SOCIETY SCIENCE & TECHNOLOGY

Weapons of Math Destruction: How Big Data Increases Inequality and Threatens Democracy

Weapons of Math Destruction: How Big Data Increases Inequality and Threatens Democracy

 

コンピュータは人を差別するだろうか?

 

データサイエンティストのキャシー・オニールによる本書"Weapons of Math Destruction: How Big Data Increases Inequality and Threatens Democracy"('数学'破壊兵器:ビッグデータはいかに不平等を助長し民主主義を脅かすか)は、人間による判断に頼らない客観的で効率的な分析を目指したはずのデータ活用に潜む罠を提起する。

 

彼女は根っからの数学オタでウォール街の金融機関でクオンツとしてはたらいていたが、リーマンショックとその後始末を経験して、数学モデルがなぜ不正義に加担してしまうかを考え始めた。

 

目次

  • 人間に頼らない司法判断
  • WMDはチューニングされない
  • フェアネスの価値はどれぐらい
  • 教科書にないブラック英単語講座:clopener
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ぼくのかんがえた2030年 - 日本と欧州がイスラム圏に加わって米露中と対峙する日

BUSINESS & SOCIETY

Letters to a Young Muslim

 

 

書評とあんまり関係ない、ただの思いつきのネタ。

 

'ちきりんの日記'の「日本はムスリム・フレンドリーな国になって留学生や観光客を引きつけるべき」という主旨の連載記事を読んで思ったのだけど、

 

最近のトランプ政権の、ロシアとエネルギー生産国ブロックを作って中東と対立しそうな勢いの動きとか、

 

マーシャル・プランとかから続く70年間の多国間主義を捨てて「外国で何が起ころうと知らん」という方針を見ていると、

 

ムスリムの留学生や観光客を引きつけるどころか、

もっと振り切って

「日本もいっそイスラム圏の国になるのが理に適っているんじゃないか?」

と思ってしまった。

 

そして、そこに「ヨーロッパの重心を南に移すこと」(ミシェル・ウェルベック「服従」より)を図った欧州の国が合流したらおもしろそう。

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想像力は無限ではない? ファスト&スローを書かせた理論と友情 - The Undoing Project by Michael Lewis

BUSINESS & SOCIETY SCIENCE & TECHNOLOGY

The Undoing Project: A Friendship that Changed the World

The Undoing Project: A Friendship that Changed the World

ある男がいたとする。彼は90歳近い高齢で、癌が全身に転移している。助かる見込はないと考えた医師と家族は手術などの措置を断念しており、既に意識がはっきりしない状態にある。さて、次のどちらが起こる可能性がより高いだろう。

 

(A)彼は1週間以内に亡くなる

(B)彼は1年以内に亡くなる

 

Aと思ってしまうかもしれないが、「どちらが起こる可能性がより高いか」という質問なら、彼の病状にかかわりなく答えはBになる。1週間以内に亡くなる確率は1年以内に亡くなる確率の一部で、ベン図にするとAの事象はすっぽりとBの集合に収まるからだ。でも、直感ではAが正しいように思える。

 

これは「連言錯誤」(Conjunction Fallacy)と呼ばれる認知バイアスのひとつ。この例はもしかすると「問題の出し方が悪い」とかツッコミを入れられるかもしれないけれど、特徴的な言葉がストーリーとして並んでいると、人間はそれに引っぱられて基本的なロジックを無視してしまう。

 

「マネー・ボール」などの著作があるマイケル・ルイスによる本書"The Undoing Project"は、こうした認知バイアス研究の先駆者であるイスラエル出身の心理学者ダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーの評伝だ。

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ビッグ・ミー、そしてモラルへの暗い道 - The Road to Character by David Brooks

BUSINESS & SOCIETY

2016/04/17 初出

2017/01/19 日本語版発売につき更新

デイヴィッド・ブルックス「あなたの人生の意味―先人に学ぶ「惜しまれる生き方」として発売

(先人を偲ぶこの本では絶対に取り上げられないであろう大統領が就任する日の4日後の2017/01/24に発売)  

The Road to Character

David Brooks "The Road to Character"

 

誰の心の中にも存在する2つの人格をめぐるノンフィクション。

 

「人格への道」という意味の本書は、エコノミスト誌の2015年ベスト本のリストにも選出されている。

 

広い意味では自己啓発本だけど、「こうすれば成功できる」「きっとあなたも成功できる」と説く本ではない。かわりに「失敗する自分の弱さを受け容れよ」と語りかける。

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黒い大統領の8年のダンス -(後編)オバマと踊った音楽と時代

FICTION & ART

*前編のラジオ番組風茶番↓からの続き

We Gon' Be Alright: Notes on Race and Resegregation

「俺たち大丈夫:人種と新たなる隔離について」(ジェフ・チャン著)(未訳)

 

目次

  • さよなら、音楽好きの大統領
  • おまけ1:ファクトチェック・オバマ
  • おまけ2:オバマの8年にリリースされたブラック音楽8選

 

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黒い大統領の8年のダンス -(前編)カウントダウン・オバマ

FICTION & ART

Hip Hop Ain't Dead: It's Livin' in the White House (English Edition)

「ヒップホップは死んじゃいない。ホワイトハウスで生きている」(サンフォード・リッチモンド著)(未訳)

 

 

やあみんな、お待ちかね!オバマのゴールデン・ヒッツを振り返る、カウントダウン・オバマの時間だよ!

お相手は僕、DJバリー(Barry)と、

 

 

MCミーシュ(Meesh)よ

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書くことは、失敗すること - Ta-Nehisi Coates on Writing

FICTION & ART

 

「私のすべての作品において、失敗はおそらくもっとも重要な要素です。」
"Failure is probably the most important factor in all of my work."

 

「書くことは、失敗することだからですー何度も何度も、嫌というほど。」
"Writing is failure. Over and over and over again."

 

正月休みに読んだ「やり抜く力 GRIT(グリット)」(アンジェラ・ダックワース著・神崎 朗子訳)という本の中で紹介されていたTa-Nehisi Coates(タナハシ・コーツ)のコメントが印象的だったので紹介したい。

 

元動画は、ジャーナリストのコーツが米国で「天才賞」と呼ばれるマッカーサー賞を2015年に受賞した際に同賞のwebページにアップされたものだ。別の年にこの賞を受賞したアンジェラ・ダックワースは、「GRIT」の中で「これ以上ないほど的確に、『書く』という仕事について語っている」とこの動画コメントを紹介している。

 

コーツは語りのリズムがとてもパワフルなので、ぜひ動画も一緒に見ていただきたい。冒頭に引用した2つのコメントは動画のいちばん最初に語られる。残りの、以下に引用するコメントは動画の後半で語られるが、該当箇所(2分32秒あたり)からスタートするリンクも貼っておく。

 

なお、翻訳は同「GRIT」の日本語版から引用した。コーツのコメントがどこでどう紹介されているかは同書をぜひ読んでいただければと思う。

 

ではどうぞ。

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