未翻訳ブックレビュー

世界の本への窓 by 植田かもめ

ある敗北の記録 - もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来 by yomoyomo

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もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来

 

このブログにとっては先輩でありネタ元でありパクリ元である存在のyomoyomoさんが2017年末に発売した電子書籍。ネットの現在と未来について、WirelessWire Newsの連載コラムを再構成したもの。

 

フォローする固有名詞のグローバルリスト

Webで日常的に情報収集をしている人なら、フォローしている固有名詞のリストを持っていないだろうか。津田大介の記事は読もう、伊藤穰一が出てくるインタビューはおさえておこう、みたいな、自分にとってのストックである(なお、ここで例示した固有名詞への好き嫌いは不問)。

 

で、 私自身がいまだに試行錯誤しているのだけど、そのリストのグローバル版を作ろうとすると、何を取っかかりにしていいのかけっこうわからない。テクノロジー関連だけでも対象が広くて、まとめページだけでも数が多い。ビル・ゲイツやマーク・ザッカーバーグやイーロン・マスクみたいな、大体誰でも知ってる名前をおさえた。でも、他にも面白い人がいるのでは。どうやって見つけたらいいのだろう。

 

本書はまず、この固有名詞のリストとして有用性が高い。フレッド・ウィルソンのAVCを私は知らなかった。スーザン・クロフォードなんかも本書の連載記事で知った。ティム・ウーやペドロ・ドミンゴスについては、著作を読んでこのブログでも紹介した。

 

テクノロジーに興味があって、面白い人をフォローしたい人は、本書を人名辞典みたいに使えると思う。実は、本書で登場するURLは一覧にまとめられていたりする。

『もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来』URL一覧

 

敗北の記録

さて、本書が語るテーマはビッグデータ、IoT、人工知能といった先端的なテクノロジーが多いのだけど、そのトーンは暗い。タイトルにある通り開かれた自由な空間になり得たかもしれなかったウェブが、少数企業による寡占で失われてしまったからだ。

 

“それでは何が変わったのか? 彼が指摘するのは、その「配信ポイント」が集約しつつあるということです。”

 (中略)

“「配信ポイント」は検索エンジンとソーシャルネットワーク、つまりはここまで何度も名前を挙げている Google と Facebook に加え、Twitter や Snapchat などメッセージングアプリになります。そのリストには Google 配下の YouTube、Facebook 配下の Instagram や WhatsApp も入り、やはりこの二大巨頭が際立つわけです。この記事でも、オンライン広告に1ドル使われると、その85パーセントは Google と Facebook に行くという話が引き合いに出されています。"

- 表題作のコラムより

 

だから本書は、敗北の歴史を記録した本のようにも読める。何が何に負けたか。自由や公正といった社会的価値がある技術は広まるという楽観主義が、クローズドなウェブの使いやすさや、広告料収入の最大化といった力学に負けたのだと思う。

 

もっと簡単に言うと、たとえば以下記事の発言にあるように、技術や思想が優れているかと、サービスが流行るかは別問題なのだ。

"カイ
私の中には「2大流行らない法則」みたいなものがあります。

 

1つ目は、技術とか思想が入口になっているサービス。

マストドンだと、分散型のネットワークでインスタンスを立ち上げられる…とかって別に利用するユーザーには関係ないですよね。ちょっと前に、Bluetooth通信で簡単にテキストメッセージがやり取りできるツールがありましたが、単純にスタンプが可愛くって使いやすいLINEの方が圧倒的に広まっています。"

(「おじさんウケするサービスは流行らない」インスタグラムのプロが断言 )

 

本書では少数のプラットフォーム企業に牛耳られない脱中央集権的なウェブを目指す動きを紹介する。負けている側に光をあてるそれらは、まるで「地べたからのシリコンバレーレポート」 みたいでもある。もっとも登場人物はくそリッチな人が多いが。

 

ボーナストラックのエッセイについて

最後に、ボーナストラックとしてついている長編エッセイについて。本編がウイスキーだとしたらチェイサーみたいなものだろうと勝手に思って読んでいたら(このエッセイはバーで飲んでいる場面がやたらと多い)、チェイサーどころか氷をガリガリ丸かじりさせられるような、傷みをもたらす文章だった。

 

自分はここに書かれた炊飯器と焼き鳥のエピソードがとても好きだ。 具体的な内容は伏せるけれど、家族って、同じメンバーで同じような生活を続けるから、変化に気付かない。でも、何かのきっかけで、それ以前とはもう違う状態になってしまったことを思い知らされる。そういう瞬間をユーモアも込めて描いている。

 

yomoyomo著「もうすぐ絶滅するという開かれたウェブについて 続・情報共有の未来」は2017年12月に発売された一冊。