未翻訳ブックレビュー

世界の本への窓 by 植田かもめ

NYタラレバ娘、あるいは、大人になれば - All Grown Up by Jami Attenberg

All Grown Up

 

美大に行って、嫌いになって、中退をして、ニューヨークへ。
(You're in art school, you hate it, you drop out, you move to New York City.)

 

そんな書き出しで始まる本書All Grown Upの主人公アンドレアは、40歳になろうとしている独身女性である。

 

ある日、一冊の本が出版される。今では結婚している有名な女性が独身時代を懐かしむエッセイだ。シングルであるとは何かについて語るその本を同僚の24歳の女性がアンドレアに貸そうとしてくる。興味あるとか言ってないのに。アンドレアの母はその本をネットで注文して送りつけてくる。"あなたの助けになると思って"。義理の妹は電話越しに聞いてくる。"そういえばあの本知ってますか"。大学時代の友人はフェイスブックで書評のリンクを送りつけてくる。"これを読んであなたを思い出したの"。

 

・・でも、アンドレアにそんな本は不要だ。シングルライフについて知らないことなんて、彼女には何ひとつ無いのだから。

 

目次

  • "What next?"
  • 幸せ探しから成長/成熟へ
  • 大人の知性の3段階
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現代ほど辞書が読まれるべき時代は無い

Shooting an Elephant: And Other Essays (Penguin Modern Classics)

Shooting an Elephant: And Other Essays by George Orwell (Penguin Modern Classics)

 

小ネタ記事。

言いたいことはタイトルの通り。

 

最近よく読んでいるBook Riotというサイトで、ジョージ・オーウェルのエッセイを引用しながら「ポスト真実」時代の辞書の重要性を語る記事があって面白かった。

 

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彼や彼女を好きになれるかはどうでもいい

Dear Friend, from My Life I Write to You in Your Life

 

小ネタ記事。

個人的に「キャラ萌え」という文化に昔からあまりなじめないのだけど、前の記事↓で紹介したイーユン・リーのエッセイ本に似たような話を見つけた。

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地獄では死が希望になる - イーユン・リー初エッセイ本

Dear Friend, From My Life I Write to You in Your Life

Dear Friend, from My Life I Write to You in Your Life by Yiyun Li

 

「あなたの気持ち、分かるよ」

「あなたのためを思って言っている」

「ネガティブに考えないでいい事に目を向けて」

 

そんな言い方をされて、嬉しくなるのではなく、イラっとしたり不快になった経験がある人は、イーユン・リーの本を気に入るかもしれない。本書"Dear Friend, from My Life I Write to You in Your Life"の中で、入院した病院のメンタルヘルスワーカーと彼女は次のようなやりとりをする。

 

どうして泣いていたの?
Why did you cry today?

 

悲しくて、と私は言った。
I'm sad, I said.

 

それはわかっている。私が知りたいのは何があなたを悲しくさせるかよ。
We know you're sad. What I want to know is, what makes you sad?

 

私を悲しみの中にそっとしておいてくれませんか?私はそう言った。
Can’t I just be left alone in my sadness? I said.

 

1972年に中国で生まれて現在はアメリカで暮らす小説家であるイーユン・リーは、管理人にとっては大好きな作家のひとり。以前に短編を紹介したり、2016年の初来日時には川上未映子とのトークイベントに行ったりもした↓ 

 

 

目次

  • アンチ自伝作家
  • 死でさえ希望になる地獄
  • 孤独になってもよいという「優しさ」
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【和訳】Chanel by Frank Ocean

 

https://images.genius.com/724b477cac0ff58e63bdd0b8317b608f.1000x1000x1.jpg

フランク・オーシャンが今月(2017年3月)発表した新曲「シャネル」の歌詞を勝手に対訳した。

 

彼のBlond(e)というアルバムは「両義性(ambiguity, duality)」がテーマ、と以前の記事で書いたけれどこの曲もその延長線上にある。

 

'See on both sides like Chanel'というキーラインが、「両面を見る」という意味もあるし、'C' on both sidesという意味で左右対称のCをあしらったシャネルのロゴにもかかっているし、「どっちでもいける」という意味でツイッターなどではバイセクシャルのアンセムとも語られている。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/en/9/92/Chanel_logo_interlocking_cs.svg

 

時計の音か心臓の音のようなこの曲を、フランク・オーシャンはアップルミュージック内の自身のラジオプログラムで18回連続で再生してお披露目した。

 

 

原詞と注釈はラプジを参考にした。言葉遊びみたいなフレーズも多いので、訳の正しさは一切保証しない。

 

ではどうぞ。

 

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