未翻訳ブックレビュー

世界の本への窓 by 植田かもめ

データが正義を殺すとき。'数学'破壊兵器とは - Weapons of Math Destruction by Cathy O'Neil

2018/5/9 追記

Weapons of Math Destruction: How Big Data Increases Inequality and Threatens Democracy

Weapons of Math Destruction: How Big Data Increases Inequality and Threatens Democracy

 

コンピュータは人を差別するだろうか?

 

本書"Weapons of Math Destruction: How Big Data Increases Inequality and Threatens Democracy"('数学'破壊兵器:ビッグデータはいかに不平等を助長し民主主義を脅かすか)は、人間の主観に頼らず客観的で中立的な分析を目指したはずのデータ活用に潜む罠を提起する。

 

データサイエンティストである著者のキャシー・オニールは根っからの数学オタク。ウォール街の金融機関でクオンツとしてはたらいていたが、リーマンショックとその後始末を経験して、数学モデルがなぜ不正義に加担してしまうかを考え始めた。

 

目次

  • 人間に頼らない司法判断
  • WMDはチューニングされない
  • フェアネスの価値はどれぐらい
  • 教科書にないブラック英単語講座:clopener
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ぼくのかんがえた2030年 - 日本と欧州がイスラム圏に加わって米露中と対峙する日

Letters to a Young Muslim

 

 

書評とあんまり関係ない、ただの思いつきのネタ。

 

'ちきりんの日記'の「日本はムスリム・フレンドリーな国になって留学生や観光客を引きつけるべき」という主旨の連載記事を読んで思ったのだけど、

 

最近のトランプ政権の、ロシアとエネルギー生産国ブロックを作って中東と対立しそうな勢いの動きとか、

 

マーシャル・プランとかから続く70年間の多国間主義を捨てて「外国で何が起ころうと知らん」という方針を見ていると、

 

ムスリムの留学生や観光客を引きつけるどころか、

もっと振り切って

「日本もいっそイスラム圏の国になるのが理に適っているんじゃないか?」

と思ってしまった。

 

そして、そこに「ヨーロッパの重心を南に移すこと」(ミシェル・ウェルベック「服従」より)を図った欧州の国が合流したらおもしろそう。

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ビッグ・ミー、そしてモラルへの暗い道 - The Road to Character by David Brooks

2016/04/17 初出

2017/01/19 日本語版発売につき更新

デイヴィッド・ブルックス「あなたの人生の意味―先人に学ぶ「惜しまれる生き方」として発売

(先人を偲ぶこの本では絶対に取り上げられないであろう大統領が就任する日の4日後の2017/01/24に発売)  

The Road to Character

David Brooks "The Road to Character"

 

誰の心の中にも存在する2つの人格をめぐるノンフィクション。

 

「人格への道」という意味の本書は、エコノミスト誌の2015年ベスト本のリストにも選出されている。

 

広い意味では自己啓発本だけど、「こうすれば成功できる」「きっとあなたも成功できる」と説く本ではない。かわりに「失敗する自分の弱さを受け容れよ」と語りかける。

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黒い大統領の8年のダンス -(後編)オバマと踊った音楽と時代

*前編のラジオ番組風茶番↓からの続き

We Gon' Be Alright: Notes on Race and Resegregation

「俺たち大丈夫:人種と新たなる隔離について」(ジェフ・チャン著)(未訳)

 

目次

  • さよなら、音楽好きの大統領
  • おまけ1:ファクトチェック・オバマ
  • おまけ2:オバマの8年にリリースされたブラック音楽8選

 

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黒い大統領の8年のダンス -(前編)カウントダウン・オバマ

Hip Hop Ain't Dead: It's Livin' in the White House (English Edition)

「ヒップホップは死んじゃいない。ホワイトハウスで生きている」(サンフォード・リッチモンド著)(未訳)

 

 

やあみんな、お待ちかね!オバマのゴールデン・ヒッツを振り返る、カウントダウン・オバマの時間だよ!

お相手は僕、DJバリー(Barry)と、

 

 

MCミーシュ(Meesh)よ

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書くことは、失敗すること - Ta-Nehisi Coates on Writing

 

「私のすべての作品において、失敗はおそらくもっとも重要な要素です。」
"Failure is probably the most important factor in all of my work."

 

「書くことは、失敗することだからですー何度も何度も、嫌というほど。」
"Writing is failure. Over and over and over again."

 

正月休みに読んだ「やり抜く力 GRIT(グリット)」(アンジェラ・ダックワース著・神崎 朗子訳)という本の中で紹介されていたTa-Nehisi Coates(タナハシ・コーツ)のコメントが印象的だったので紹介したい。

 

元動画は、ジャーナリストのコーツが米国で「天才賞」と呼ばれるマッカーサー賞を2015年に受賞した際に同賞のwebページにアップされたものだ。別の年にこの賞を受賞したアンジェラ・ダックワースは、「GRIT」の中で「これ以上ないほど的確に、『書く』という仕事について語っている」とこの動画コメントを紹介している。

 

コーツは語りのリズムがとてもパワフルなので、ぜひ動画も一緒に見ていただきたい。冒頭に引用した2つのコメントは動画のいちばん最初に語られる。残りの、以下に引用するコメントは動画の後半で語られるが、該当箇所(2分32秒あたり)からスタートするリンクも貼っておく。

 

なお、翻訳は同「GRIT」の日本語版から引用した。コーツのコメントがどこでどう紹介されているかは同書をぜひ読んでいただければと思う。

 

ではどうぞ。

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2016年の未翻訳ブックレビュー

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2016年はだいたい月に1冊ぐらいのペースで本を紹介してきたので、月別のまとめを作った。個人的な好奇心の航行記録。達成も未達もない営業月報。取り上げた本の日本語版が出たかの情報も付記した(2016年12月時点)。

 

ひとつ前にアップしたまとめ記事とかぶっている記述も幾つかあったりするが、かぶっているのはオススメ度が高いもの。

 

2015年の夏に始めたこのブログだけど、今年は編集者の小田明志さんに拾ってもらったり*1、エトガル・ケレットの翻訳者の秋元孝文さんに紹介してもらったり*2など、何かを作ったり書いたりしている人から言及してもらえたことがとても嬉しかった。

 

年内の更新はこれでおわり。読んでくれた皆様ありがとうございます。まだまだ取り上げたい本は多いので、更新頻度は低いだろうし記事はどれも長いだろうけれど来年もたまにアクセスしてみてください。まだ他には出てない情報が書いてある予定。

 

では2016年のまとめです。最も忙しい人は2月だけ、もう少し余裕がある人は2、5、1月をどうぞ(管理人が自分で好きな記事順)。

 

2016年月別まとめ目次

  • 1月:他の動物と人間の一番の違いは?
  • 2月:スマホは恋愛をどう変えた?
  • 3月:白人はアメリカで少数派になる?
  • 4月:シンプルな説明、あとモラル
  • 5月:笑いがなければこの世は闇
  • 6月:今のインターネットはひどい(1)
  • 7月:今のインターネットはひどい(2)
  • 8月:今のインターネットはひどい(3)
  • 9月:成長するってこと
  • 10月:そして神になる
  • 11月: 私たちの歴史。の私たちって誰?
  • 12月: 憎しみと笑い
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