未翻訳ブックレビュー

世界の本への窓 by 植田かもめ

ジョブスがいればiPhoneが生まれるか - The One Device by Brian Merchant

The One Device: The Secret History of the iPhone (English Edition)

The One Device: The Secret History of the iPhone

 

スマホかセックス、あきらめるならどちらにするか?

 

米国のIT企業Delvvが「3ヶ月スマホを使えないのと同じ期間セックスができないのとどちらを選ぶか」を18歳以上の男女に尋ねたところ、約3割がセックスをしない方を選ぶと答えた。

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ゆるふわギャングと好奇心

Mars Ice House

ゆるふわギャング - Mars Ice House

 

 

書評じゃない番外記事。

 

"Escape To The Paradise"という曲を聴いて以来、ゆるふわギャングが好きだ。おっさん向け音楽雑誌とかにありそうな言い回しをすると、これって「2017年の'ナイトクルージング'」なんじゃないかと思う。

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ドイツ映画「ありがとう、トニ・エルドマン」が描くグローバルビジネスというサブカルチャー。そして、ラストダンスは私に

【映画パンフレット】 ありがとう、トニ・エルドマン 監督 マーレン・アーデ キャスト ペーター・シモニスチェク サンドラ・フラー


【予告編】映画『ありがとう、トニ・エルドマン』

 

2017年のアカデミー外国語映画賞にもノミネートされたドイツ映画「ありがとう、トニ・エルドマン」がめちゃくちゃ良かった。

 

簡単にあらすじを説明すると、グローバル企業でキャリアを重ね故郷のドイツを離れてルーマニアで働く娘のイネスの職場に、イタズラ好きな性格の父が予告もなく尋ねてくる。一度は追い返されるが、謎のカツラと入れ歯で変装した父は「トニ・エルドマン」と名乗ってイネスが行くところに神出鬼没で現れる・・

 

本作の中心にはユーモアと親子の愛があって、映画館で何度も声を出して笑ったし、泣きもした。親父ギャグのウザさも、子を想う父の愛も万国共通だ。ただ、この記事ではユーモアにも親子愛にも触れない。この映画には単なる父と娘の人情ストーリーに留まらない多層的な広がりがあって、そっちを語りたい。

 

具体的には、この映画のグローバル・ビジネスの描き方のリアルさと、人生で何に時間を使うべきかという本作のテーマについてである。ではどうぞ。

 

  • グローバルビジネスという「サブカルチャー」
  • 現代人の裁断された時間
  • 自分にとってのラストダンス
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想像力は無限ではない? ファスト&スローを書かせた理論と友情 - The Undoing Project by Michael Lewis

2017/01/22 初出

2017/07/07 日本語版発売につき更新

マイケル・ルイス「かくて行動経済学は生まれり」として2017/7/14発売

The Undoing Project: A Friendship that Changed the World

The Undoing Project: A Friendship that Changed the World

ある男がいたとする。彼は90歳近い高齢で、癌が全身に転移している。助かる見込はないと考えた医師と家族は手術などの措置を断念しており、既に意識がはっきりしない状態にある。さて、次のどちらが起こる可能性がより高いだろう。

 

(A)彼は1週間以内に亡くなる

(B)彼は1年以内に亡くなる

 

Aと思ってしまうかもしれないが、「どちらが起こる可能性がより高いか」という質問なら、彼の病状にかかわりなく答えはBになる。1週間以内に亡くなる確率は1年以内に亡くなる確率の一部で、ベン図にするとAの事象はすっぽりとBの事象に収まるからだ。でも、直感ではAが正しいように思える。

 

これは「連言錯誤」(Conjunction Fallacy)と呼ばれる認知バイアスのひとつ。この例はもしかすると「問題の出し方が悪い」とかツッコミを入れられるかもしれないけれど、特徴的な言葉がストーリーとして並んでいると、人間はそれに引っぱられて基本的なロジックを無視してしまう。

 

「マネー・ボール」などの著作があるマイケル・ルイスによる本書"The Undoing Project"は、こうした認知バイアス研究の先駆者であるイスラエル出身の心理学者ダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーの評伝だ。

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【取材協力しました】サイゾー17年7月号「日本の"裏"を知る本100冊」

サイゾー2017年7月号【ヤバい本100冊・三代目JSB EXILEと春樹・コーネリアス小山田圭吾】

 

お知らせです。

 

月刊サイゾー7月号の特集「日本の"裏"を知る本100冊」内の「ハリウッドで『原作改変』が横行する理由」という記事に取材協力しました。

 

「映画化間近な未翻訳小説」というお題の取材に答えて6冊ほどコメント付きで選書したものを、1ページのコラムにまとめていただいています。

 

紙版の他、KindleやKindle Unlimited、dマガジンでも読めるはずなので是非ご覧ください。6月19日発売です。Webでも一部無料で読めます。

 

同誌で長年連載をしている映画評論家の町山智浩さんを大尊敬しているので、同じ雑誌に関与できて嬉しかったです。あと、このブログでも紹介済の本については以下に過去記事リンクを貼っておきます。

*2017.07.17:リンク追加("American War" を新たに記事にした)

 


 

 

 

・・ところで、同誌にコーネリアス小山田圭吾のインタビューが載っていて、息子がもう高校生と知ってビビりました。父親は息子からドレイクのpassionfruitを教えてもらったりしているそうな。。 

 

Passionfruit

Passionfruit

  • ドレイク
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes


Cornelius - 『あなたがいるなら』"If You're Here"

 

AIは人間に興味がない - To Be a Machine by Marc O'Connell

To be a Machine: Adventures Among Cyborgs, Utopians, Hackers, and the Futurists Solving the Modest Problem of Death

Marc O'Connell - To be a Machine: Adventures Among Cyborgs, Utopians, Hackers, and the Futurists Solving the Modest Problem of Death

 

「人間は最適化されていないシステム(suboptimal system)だ」

 

身体のサイボーグ化、脳の冷凍保存、意識のアップロード・・本書「To Be a Machine」で、作家・コラムニストのマーク・オコンネルはトランス・ヒューマズム(超人間主義)と呼ばれるムーブメントの推進人物たちを訪ねる。

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フランク・オーシャンは恋人をお前と呼ぶか - 翻訳における人称の屈折や揺らぎについて

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小ネタ記事。英語の一人称や二人称を日本語にどう訳すかは複雑になりつつあって、それは「男らしさ」や「女らしさ」といった概念が揺らいでいることにも関係しているのではないか、という説。

 

前の記事でもちらっと紹介した、米国社会で黒人がどう生きるかを父が息子に説く「世界と僕のあいだに」(タナハシ・コーツ著)という本の日本語版に次のような記述があった。

  

息子よ。お前と僕はその「底辺」なんだ。一七七六年にはそれが真実だった。そして今もなお真実だ。お前がいなければ連中もいないし、お前を破壊する権利がなければ、連中は山から滑り落ち、聖性を失い、「ドリーム」から転落する。

*下線は筆者

タナハシ・コーツ「世界と僕のあいだに」池田年穂訳より) 

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