未翻訳ブックレビュー

世界の本への窓 by 植田かもめ

早稲田文学増刊女性号への私的トリビュート

早稲田文学増刊 女性号 (単行本)

早稲田文学増刊 女性号

 

川上未映子責任編集、2017年9月発売の「早稲田文学増刊・女性号」を読んだ。掲載されている新旧洋邦の小説、詩、短歌、エッセイ、対談の作者がオール女性。500ページ超の分厚さで、辞書みたいとも言えるけど、より印象が近いのは雑多な書き手のマンガ雑誌。石垣りん、今村夏子、ヴィンセント・ミレー、チママンダ・アディーチェ、松田青子、ルシア・ベルリンなどなどシビれる執筆者のラインナップは公式ページで見られる。

 

そして、このブログで過去に紹介した作家も同誌内に複数登場しているので、以下に関連過去記事のまとめを作ってみた。おこがましい言い方だけど、とてもヴァイブスが近いと感じている。ヴァイブス/vibes、というのは「ノリ」とか「雰囲気」とか訳されるけれど、ここでは「感受性」という意味で使っている。

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失敗していいよと言ってくれる会社 - An Everyone Culture by Robert Kegan and Lisa Laskow Lahey

An Everyone Culture: Becoming a Deliberately Developmental Organization

An Everyone Culture: Becoming a Deliberately Developmental Organization

 

2016/09/11 初出

2017/09/01 日本語版発売につき更新

ロバート・キーガン、 リサ・ラスコウ・レイヒー「なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか 」として2017/8/7発売

 

組織に属する多くの人間は、本来の仕事とは別に、誰もお金を払ってくれないもうひとつの仕事をしている。自分の弱点を隠し、周囲からよく見られるように振る舞うという仕事だ。

 

もし、膨大なリソースを奪っているこの仕事から個人を解放できたらどうなるだろう。ハーバード大教授のロバート・キーガンとリサ・レイヒーが本書で提唱する新しい組織のあり方、それがDDO = Deliberately Developmental Organizationである。

 

DDOの適切な訳語は分からないけれど「自発的に成長する組織」としておく(2017.9.1追記。日本語版では「発達指向型組織」と訳出)。業種の異なる3社のケース・スタディを中心に、本書はそのコンセプトを説明する。

 

DDOとは何か。いきなりだけど、はっきりした定義はない。DDOは組織形態でも社内制度でもITシステムでもなく、カルチャーだからだ。個人が最も成長するときに、組織も最も繁栄する。そう信じるカルチャーである。

 

目次

  • DDOの構成要素:Edge, Home, Groove 
  • でも、儲からないんじゃないの?
  • 技術的な課題と適応を要する課題
  • 幸福とは状態ではなく成長のプロセス
  • 「御社の社風にひかれました」

 

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【和訳】フランク・オーシャンの夏への愛を語る / Summer Remains

CHANNEL ORANGE

Blonde [Explicit]

目次

  • フランク・オーシャンの歌詞は俳句
  • 和訳:フランク・オーシャンの夏への愛
  • 和訳:Summer Remains
  • 関連過去記事まとめ

 

書評じゃない番外記事。

 

フランク・オーシャンの歌詞を解説した3分ほどのWeb動画ニュースが面白かったので内容を和訳してみた。ついでに、Summer Remainsという未発表曲の歌詞も和訳してみた。

 

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戦争はいつも海の向こうで始まるか - American War by Omar El Akkad

American War (English Edition)

Omar El Akkad - American War

 

2017/07/17 初出

2017/08/25 日本語版発売につき更新

オマル・エル=アッカド「アメリカン・ウォー」として2017/8/29発売

 

2074年、第2次南北戦争勃発。

 

本書Amrican Warは、中国とイスラムが2大勢力となった20世紀後半の世界での没落したアメリカを舞台にした小説だ。主人公である6歳の少女サラ・チェスナットは父親を失い、残された家族とともに難民キャンプで育つ。やがて、ある出来事をきっかけに彼女は自ら内戦に身を投じる・・

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ちょっと今から人間やめてくる -「すごい物理学講義」とホモ・デウスの話

Reality Is Not What It Seems: The Journey to Quantum Gravity

Carlo Rovelli - Reality Is Not What It Seems: The Journey to Quantum Gravity

すごい物理学講義

カルロ・ロヴェッリ - すごい物理学講義

 

人間が人間であることはなんてすばらしくて、人間が人間でしかないことはなんてショボいのだろう。

 

以前「未来が見える未訳本カタログ2017」という記事で紹介したイタリアの理論物理学者カルロ・ロヴェッリの著書"Reality Is Not What It Seems"、その日本語版「すごい物理学講義」を読んだ。この記事はその感想。

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