未翻訳ブックレビュー

世界の本への窓 by 植田かもめ

宇宙人に人類史を教えるための7+1冊:Sapiensから広げるブックリスト

 

ひとつ前にアップした記事↑の関連エントリ。

 

ユヴァル・ノア・ハラリの「サピエンス」は、取るに足らないチンパンジーの一種だった人間が地球の支配者になれた要因は何だったのかを語る本だ。生物進化や経済やテクノロジーなど広範な領域について言及するこの本をハブとして、人類史について考えるためのブックリストを作ってみた。

 

むかし何かで聞いた小学生向けの国語記述問題で「宇宙人に冷蔵庫とは何か説明してください」というのがあって、とてもいい問題だなあと思った。それにならって、宇宙人に人類史を教えるための・・としている。

 

なお、この並びならばあの本も入れられるみたいなのは無数に探せるはず。ではどうぞ。

 

137億年の物語―宇宙が始まってから今日までの全歴史

137億年の物語―宇宙が始まってから今日までの全歴史

何事もまずは全体のスケールの把握から。本書はビッグバンから地球の誕生を経て21世紀に至るまでを24時間の時計にあてはめて一冊で網羅する。そうすると、人類の歴史が始まるのは真夜中まで20秒足らずの時点で、文明の誕生は残り0.1秒のタイミングになる。どんな人類史も、この20秒か0.1秒についての議論である。ホモ・サピエンスはある時点で個体数が10000人以下まで激減したので、我々の遺伝子配列は他の哺乳類の大半よりおそろしく多様性に欠ける。とかこの本で知りました。

 

若い読者のための第三のチンパンジー: 人間という動物の進化と未来

若い読者のための第三のチンパンジー: 人間という動物の進化と未来

全体像把握その2。「サピエンス」の表紙にも推薦文を寄せているジャレド・ダイアモンドの第1作「人間はどこまでチンパンジーか」のアップデート再編集版。「銃・病原菌・鉄」もいいけれど長いのでコンパクトなこちらを。「もし、宇宙人の研究者が人間を目の当たりにする機会でもあれば、人間はコモンチンパンジー、ボノボに続く、三番目のチンパンジーとただちにそう分類されてしまうだろう。」と語る本書で、人間が基本はいかにチンパンジーであるかをおさえる。

 

殺人ザルはいかにして経済に目覚めたか?―― ヒトの進化からみた経済学

殺人ザルはいかにして経済に目覚めたか?―― ヒトの進化からみた経済学

ここからが、人間の中のチンパンジーでない部分についての各論。物理的な実体のないフィクションを信じられる生物は人間だけであり、それが無数の見知らぬ他人との協力を可能にした、というのが前のエントリで紹介した「サピエンス」の主張である。そして、本書も信用と協力の歴史について語る。経済発展の基盤は「信用」である。しかし、我々は目に見えないものや会ったこともない人を時々信用し過ぎてしまう。「サピエンス」では触れられていない信用のダークサイドが本書で詳述される。バブルや経済危機は人間がフィクションを過剰に信用できてしまうために起こる副作用のようなものかもしれない。

 

つぎはぎだらけの脳と心―脳の進化は、いかに愛、記憶、夢、神をもたらしたのか?

つぎはぎだらけの脳と心―脳の進化は、いかに愛、記憶、夢、神をもたらしたのか?

これも「サピエンス」では語られていない点として、なぜ人間はフィクションを認知できるのかという疑問がある。答えは脳神経科学がいずれ解明すると思うのだが、本書は「作話」という脳機能を手がかりにそのヒントを探る。膨大でときに矛盾する情報を統合するために、人間の脳は物語作りをやめられない。古今東西、全ての文明が宗教(特定の神でなくても何らかの超越的な存在)を有するのは、脳にビルトインされた機能に起因すると本書は考察する。 

 

火の賜物―ヒトは料理で進化した

火の賜物―ヒトは料理で進化した

「サピエンス」の中で言及される理論として、火の使用と料理は人間の進化の結果ではなく、むしろ人間を進化させた原因なのだとする説がある。詳細は本書で語られているが、料理により消化に使うエネルギーを省力化できたことで余ったエネルギーが脳に回って脳の容量が拡大したというのがその説だ。反対に、チンパンジーは一日に6時間以上も食物を噛むのに使うらしい。

 

人口の世界史

人口の世界史

現在の地球の人口は70億超だが、これはなぜ7億でもなければ700億でもないのだろうか。人口は均衡している時期もあるが、ときどきこの均衡は破壊されて成長と停滞が交互に訪れる。「サピエンス」は定量的な図表があまり出てこないので、、本書で補足したい。

 

フューチャー・オブ・マインド―心の未来を科学する

フューチャー・オブ・マインド―心の未来を科学する

最後は未来予想。テクノロジーの進化は、人間の認知の枠組み自体を変えるというのが「サピエンス」の見通しである。本書は、脳信号を直接伝送できるようにして他人の脳とインタフェースを行うブレインネットの構築、記憶や思考のオーダーメイドなど、未来の心の仕組みについて、理論物理学者ミチオ・カクが構想する一冊。

 

おまけ

そして、おまけ。アフリカの片隅で殺したり殺されたりしていたホモ・サピエンスは地球全域を支配するまでに登りつめたけれど、誰かにこの座を取って替わられることはないだろうか。これも、「サピエンス」には書かれていない観点である。

 

上に挙げたフューチャー・オブ・マインドにも出てくる話なのだが、2016年の現時点で、人間の座を奪いそうな存在としてホットなのは、他の動物ではなくて、人間自身が生み出すAI(およびそれを実装したロボットなどの機械)ではないだろうか。スティーヴン・ホーキング博士をはじめとして、AIが人類を超えて制御不能となることに警鐘を鳴らす識者は多く、反対に、人類にとって有益なAIの研究機関をイーロン・マスクらが設立するといった動きも起きている。

 

なので、このリストにもう一冊、人工知能絡みの本を加えようかなとしていたのだけど、そこでふと思った。そもそも、なぜAIが人間を超えたり人間を滅ぼしたりしてはいけないのだろうか。

 

「人間より知的に高度で、他の生物の生態系や地球環境も破壊しない存在がもしいたら、人間を滅ぼして地球の新たな支配者となってはいけないの?あなたは人間だからそうなってほしくないかもしれないけれど、地球上のほとんどの生物は、人間が滅んでロボットが栄える方がハッピーなのでは?」

 

宇宙人にそう聞かれたら何て答えようか。こうした思考実験への回答はたぶんSFなんかで描かれているのだと思うが、このリストのおまけには、SFでもなく、人工知能絡みの本でもなく、かわりに寄生獣を追加しておく。同じ問いが発せられているから。

 

寄生獣(完全版)(1) (KCデラックス アフタヌーン)

寄生獣(完全版)(1) (KCデラックス アフタヌーン)

 

勉強熱心なミギーだったら、きっとこのリストに挙げた本は一晩で全部読んでしまうのだろう。