未翻訳ブックレビュー

Lost In Bookish Rambles. 日本語版発売を待たずに本を紹介するページです

【番外】「陳列欲」と電子書籍の新しい売り方

このブログは書評ブログですが、これは番外エントリーです。
何か好きなものを並べてうっとりしたい。という欲求についての話。

 

今日アマゾンを見ていて、ガルシア・マルケスの著作の英語版が新装されているのを見つけました。2014年に出た新装版らしい。これが統一感の取れたオッサレーな装丁で、思わずKindle版を2,3冊ポチりそうになりました。

One Hundred Years of Solitude (Marquez 2014)

 The Autumn of the Patriarch (Marquez 2014)

Of Love and Other Demons (Marquez 2014)

Living to Tell the Tale (Marquez 2014)

で、このガルシア・マルケスの新装版はハードカバーとKindle版双方で同じ表紙のようですが、実はKindleの本を見ていると、物理書籍は新装されていないけどKindleの表紙カバー画だけ変わっているということがたまにあります。

 

以前のエントリで取り上げた神経科医で作家のオリヴァー・サックスは昨年亡くなったのですが、亡くなった後で旧作のKindle版表紙が一新されていました。これも統一されたテイストの表紙になっていて、思わず集めそうになりました。

Musicophilia: Tales of Music and the Brain (English Edition)

An Anthropologist on Mars: Seven Paradoxical Tales (English Edition)

Uncle Tungsten: Memories of a Chemical Boyhood (English Edition)

 注:ハードカバーやペーパーバック版は新装されていなくてKindle版だけ変更されています

 

ちなみに、上のガルシアマルケスのケースでは本自体が「新装版」という別商品として発売されていますが、このオリヴァー・サックスのケースでは、本の中身は全く変更がなく、従前から売られているバージョンと同一商品として売られています。このケースの場合、過去に購入してダウンロード済だった人たちは、ある日突然自分のデバイス上の本の表紙が変わっているという状態を経験します*1。私は以前ジョージ・オーウェルの「動物農場」(animal farm)を買って、ある日iPadで見たらシブい古典文学って感じだったはずの表紙がワルい残酷童話って感じに変わっていてびっくりしました。

Animal Farm (English Edition)

↑これがその新表紙。あまり好きじゃない。。

 

ちょっと脱線しますが、表紙だと変更がすぐにわかりますが、これって実は本の中身も書き換えられるということだと思います。知らない間に、自分が読んだ本の内容が更新されることが技術的には起こり得る。電子書籍は「所有」しているのではなく「利用」しているのだと感じます。

 

さて、本が好きな方の中には、自分の本棚の並びを整理したりするのが好きな方がいるかもしれません。並び順を微調整したり、気に入った装丁の本は背表紙でなく表を向けてみたり(書店などでは「面陳」と呼ぶらしいです)。

 

本に限らず、DVDだったり靴だったり食器だったりインテリアだったりフィギュアだったり、自分が好きなものを自分の好きなように並べてうっとり。みたいな事を楽しむ人はけっこういると思います。

 

こういう嗜好を何と呼ぶのかわかりませんが、とりあえず「陳列欲」と名付けます。これは、生物の分類をxx目xx科xx属(e.g.霊長目ヒト科チンパンジー属)とか呼ぶように人間の欲求をテキトーに分類すると、「趣味目整理整頓科自己満足属」みたいな分類になる欲求かもしれません。たとえば、近年のアナログレコードの売上復活を支えているのは、「アナログの温もりのある音を聞きたい」とかの欲求よりも、「大きなジャケットアートワークなどモノとして素敵なレコードを持ってそして並べたい」という欲求なんじゃないかと思います。

 

さて、この陳列欲って、デジタルコンテンツにはどのぐらいはたらくのでしょうか。自分の例ですが、私はKindleの専用端末(Paperwhite)とiPad/iPhoneでのKindleアプリをどちらも使っています。Paperwhite端末は、ライトを完全にオフにして反射光だけで使用すると目への負担も紙と変わらないので文章を読むのにはとてもいいです。しかし、画面が小さいし白黒のためあまり本の表紙を並べて表示したいとは思いません。

 

一方で、iPadだとカラーだしそこそこ画面も大きいのでKindleアプリのコレクション機能を使って本を並べてみたくなったりします。

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↑正月にKindleストアで光文社古典新訳文庫のセールやっていた時にまとめ買いした本。ほぼ全て未読。。

 

何年か前にアップルがU2の新作アルバムを「プレゼント」と称して全ユーザーのiTunesに勝手に配信して顰蹙をかったことがありました。これは、「勝手にデータ転送量/端末の容量を使うな」という不満やU2が良い悪いという問題よりも、ユーザが自分のデジタルライブラリを物理的なライブラリと同じようなものだと捉えていて、「私の陳列を勝手に乱すな」という不満だったのだと思います。また、ブクログなどweb上に本棚を作るサービスは、デジタルコンテンツにも「並べて愛でたい」という欲求がはたらく事を示す例だと思います。ツイッターやインスタグラムで最近流行っている「#私を構成する9枚」というのもその例になると思います。*2

 

もしデジタルコンテンツにもそうした欲求がはたらくなら、今後の電子書籍の売り方として、表紙を新装するというアプローチは有効かもしれません。たとえばスラムダンクとかの人気マンガの表紙を新イラストにしてまとめて売ったりしたら、紙版を持っている人も買ってしまうのではないでしょうか。個人的には、たとえば筒井康隆とか安部公房とかの旧作が上で紹介したガルシア・マルケスやオリヴァー・サックスの例のように統一されたテイストの新装丁で売り出されていたら際限なく買っちゃいそうです。また、たとえば講談社ブルーバックスが表紙を一新してまとめ売りとかされてたらまとめて買いたいです。上述の通り、買ったアイテムがいきなり別の表紙に変わっちゃったりするかもしれませんが。

 

Kindle Paperwhite (ニューモデル) Wi-Fi

Kindle Paperwhite (ニューモデル) Wi-Fi

 

 

*1:厳密に言うと、デバイスにダウンロード済のコンテンツは更新されませんが、クラウド上から再ダウンロードするときに変更後の表紙でダウンロードされます

*2:自分もやってみました。リスペクトと皮肉を込めて。