未翻訳ブックレビュー

世界の本への窓 by 植田かもめ

俺のグラミー/アカデミー/ピュリッツァー賞2015

今年よかった音楽と映画と本をまとめて紹介します。

かっこつけてグラミー/アカデミー/ピュリッツァー賞としていますが、ひとりで勝手に選んでいるだけなので、名前はレコード大賞でも映画秘宝ベストでも王立協会科学図書賞でもなんでもいいです。とりあえず俺の株式会社のビジネスモデルにリスペクト(俺の揚子江が気になります)。ではどうぞ。

 

俺のグラミー賞

Kendrick Lamar - To Pimp A Butterfly

To Pimp a Butterfly

オバマ大統領もお気に入り、コンプトン出身ラッパーのケンドリック・ラマーです。どうせ本物のグラミー賞を受賞するのでしょうけれど。

先行発表されていた"i"という曲があり、フックが"I love myself!"という歌詞なのですが、最初にこれを聞いたとき、SNS時代の自分大好きっぷりを皮肉っているのかなと勝手に解釈しました。が、「奴隷だった高祖父の手紙」という文章を今年読んだ時にこの曲を思い出して、「奴隷から解放された人間が"I love myself!"って叫んでいる歌だとしたらかっこいいなあ」とか思いました。どっちの解釈もたぶん違いますが。 

 

Earl Sweatshirt - I Don't Like Shit, I Don't Go Outside

I Don't Like Shit, I Don't Go Outside

ここ2〜3年のとても暗くてとても豊かなUSヒップホップが自分は大好きです。Earl Sweatshirtによる、「興味ねえし、家から出たくもない」このアルバムはその極点です。

 

Miguel - Wildheart

Wildheart

新しきソウルの光と道。
過去エントリでPitchforkによるレビューを訳して紹介しました。

 

 

俺のアカデミー賞

野火

映画館を出ても現実復帰できなくて町の風景が違って見える。という経験を久しぶりにした、塚本晋也監督作です。DVDが出るのかもしれませんが、スクリーンで見るか、一生見ないか、どっちかにした方がいい映画だと思ってます。原作を読み直してアマゾンにレビュー書いたりもしました。

 

バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)

かつてヒーローものに主演し人気だった俳優が落ち目になり再起をかけて舞台を企画するが評論家からは酷評され家族からは疎んじられSNSも大炎上、というストーリーです。他人に何を言われようが自分の成功を自分で定義できる『無知』な人間が強い、評する者があれば我のみ。というメッセージがある映画だと思いました。個人的に、「xxに非難殺到」「xxに疑問の声」「xxに絶賛」といった類の、ファクトではなく評判が見出しになっているネット記事は読まないようにしている今日この頃です。

 

俺のピュリッツァー賞

ロジャー・イーカーチ「失われた夜の歴史」

失われた夜の歴史

産業革命以前、夜がまだ暗さを失わない「もう一つの王国」だった頃の経済、文化、習慣、そして個人の感受性の全貌を歴史学者が膨大な一次資料を基に描いたノンフィクションです。

むかしのヨーロッパでは分割睡眠といって一晩の睡眠を二回に分けて取る習慣が一般的で、最初の眠りと次の眠りの間に覚醒でもなく眠りでもない半意識の状態があったそうです。フランス人はこの状態を「ドルヴェイユ(dorveille)」と呼んで、ゆっくり考え事をしたりパートナーと語りあう時間に充てていたそうな(語りあうだけじゃなかった可能性大)。最近グーグルとかが広めて流行っている「マインドフルネス」ってそういう状態なのかも。とか思いました。

あと、この本を出しているインターシフトという出版社が大好きです。ここ数年、同社が出すノンフィクションは全部読むぞ。という目標を毎年立てて毎年実現できていないです。

 

アシュリー・ヴァンス「イーロン・マスク 未来を創る男」 

イーロン・マスク 未来を創る男

 「この人類がすごい!2015」生きている人部門の個人的な1位です。過去エントリで紹介しました。

 

レイ・ブラッドベリ「バビロン行きの夜行列車」

バビロン行きの夜行列車 (ハルキ文庫 フ 1-1)

2014年に新訳が出た短編集です。この中の「覚えているかい、おれのこと?(Remember me?)」というコメディが最高でした。旅行でフィレンツェを訪れたアメリカ人のオッサンが、たまたま同じように旅行中だった近所の肉屋のオヤジと出くわし、気まずい夕食をともにする話です。家族や恋人といった親密な関係でなく、顔を知っている程度というビミョーな関係を描いて人間愛を感じさせるブラッドベリってすごいなと思いました。

 

イーユン・リー「独りでいるより優しくて」

独りでいるより優しくて

中国出身アメリカ在住の女性作家の長編小説です。めちゃくちゃ画力がある絵画やマンガを見たり、めちゃくちゃ声量があって音域も広い歌手の歌を聴いたときのように、単純に「うまいなあ」と、その文章表現力に感嘆した小説でした。過去エントリで同著者の未訳短編を紹介しました。

私は「越境者萌え」「異邦人萌え」「アウトサイダー萌え」の傾向が強く、この人の他にも、同じく中国出身のハ・ジンとかインド出身のジュンパ・ラヒリとか大好きです。

 

R.J.パラシオ「ワンダー」

ワンダー Wonder

最後に、今年の6月にこのブログを始めたときに最初に紹介した本です。

「未訳本を先取りしてササっと紹介するブログをやろうかな」とけっこう前から思っていたのですが、これ読んでいなかったらまだ始めていなかったかもしれないです。過去エントリはこちら。

 

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年内の更新おそらくこれで最後です。読んでくださった方ありがとうございます。いわゆる身辺雑記みたいなブログを昔やっていた時は全然長続きしなかったのですが、本を読んで文章を書くのって無限に工夫の余地があるので(K.U.F.U.)、このブログは続けようと思います。みなさま来年もベターライフを。