未翻訳ブックレビュー

世界の本への窓 by 植田かもめ

国際政治のタイトロープの上で踊る通訳者の歴史 - Anna Aslanyan『Dancing on Ropes』

Dancing on Ropes: Translators and the Balance of History (English Edition)

 

新潮社「Foresight」での連載「未翻訳本から読む世界」、更新されています。

通訳者は国際政治の綱の上で踊る:植田かもめ | 未翻訳本から読む世界 | 新潮社 Foresight(フォーサイト) | 会員制国際情報サイト

 

ジャーナリストでありフリーランスの翻訳家・通訳者でもあるアンナ・アスラニアンが古今東西の通訳者を紹介する"Dancing on Ropes"を紹介しています。

 

通訳者は中立で無色透明な存在と思われるかもしれないけれど、ヒリヒリするような利害対立が存在する国際政治交渉の場では決して「中立」でなんかいられない、という話をしています。

 

と言いつつ、今週ちょうどロシアによるウクライナ侵攻が始まって、なんだか牧歌的な内容の本にも思えてきました。冷戦時代にフルシチョフがロシアのことわざを多用したために通訳はどうニュアンスを伝えるか苦労した、みたいなエピソードを紹介しているのですが、プーチンの冷徹なアナウンスメントには、誤訳の余地も無さそうです。

 

なお、オスマン帝国の公式通訳であった「ドラゴマン」と呼ばれた人々の歴史も紹介しています。半分通訳、半分外交官であった彼らはオスマン帝国とヨーロッパの間の橋渡しをしていましが、オスマン帝国という「アラブ世界」が、トルコ共和国という「ヨーロッパ」にアイデンティティを変えていく歴史に飲み込まれながら奔走します。幕末を舞台にした大河ドラマみたいな物語で面白かったです。