未翻訳ブックレビュー

Lost In Bookish Rambles. 日本語版発売を待たずに本を紹介するページです

FICTION & ART

フランク・オーシャンは恋人をお前と呼ぶか - 翻訳における人称の屈折や揺らぎについて

小ネタ記事。英語の一人称や二人称を日本語にどう訳すかは複雑になりつつあって、それは「男らしさ」や「女らしさ」といった概念が揺らいでいることにも関係しているのではないか、という説。 前の記事でもちらっと紹介した、米国社会で黒人がどう生きるかを…

XにおいてYであることについての本(そして自分語りはなぜつまらないのか論)

Omar Saif Ghobash - Letters to a Young Muslim 仮説。世の中のエッセイはすべて「XにおいてYであること」についての文章であると分解できる。 Xは外部環境のことで、時代や国や所属する組織や家族などを指す。 Yは内部環境のことで、性別や人種や年齢や職…

NYタラレバ娘、あるいは、大人になれば - All Grown Up by Jami Attenberg

美大に行って、嫌いになって、中退をして、ニューヨークへ。(You're in art school, you hate it, you drop out, you move to New York City.) そんな書き出しで始まる本書All Grown Upの主人公アンドレアは、40歳になろうとしている独身女性である。 ある…

K-POPでも韓流ドラマでもない、韓国の文学と音楽と映画

なんか気が付いたら韓国の作品がすごい。 まとめてみた。 目次 ハン・ガンの文学 イ・ランの音楽 ナ・ホンジンの映画 まとめ:ヘル朝鮮

彼や彼女を好きになれるかはどうでもいい

小ネタ記事。 個人的に「キャラ萌え」という文化に昔からあまりなじめないのだけど、前の記事↓で紹介したイーユン・リーのエッセイ本に似たような話を見つけて共感した。

地獄では死が希望になる - イーユン・リー初エッセイ本

Dear Friend, from My Life I Write to You in Your Life by Yiyun Li 「あなたの気持ち、分かるよ」 「あなたのためを思って言っている」 「ネガティブに考えないでいい事に目を向けて」 そんな言い方をされて、嬉しくなるのではなくイラっとしたり不快にな…

【和訳】Chanel by Frank Ocean

フランク・オーシャンが今月(2017年3月)発表した新曲「シャネル」の歌詞を勝手に対訳した。 彼のBlond(e)というアルバムは「両義性(ambiguity, duality)」がテーマ、と以前の記事で書いたけれどこの曲もその延長線上にある。 'See on both sides like Chan…

現実ばかりがリアルじゃない - 4321 by Paul Auster あと、騎士団長殺し by 村上春樹

Paul Auster - 4 3 2 1: A Novel 20世紀最初の日、東欧からひとりの移民が大西洋を渡った。ニューヨークのエリス島で入国の受付を待つ間、ロシア人の仲間が話しかけてくる。ここでは名前を変えた方がいい、アメリカでの新しい人生のために、新しい名前を名乗…

黒い大統領の8年のダンス -(後編)オバマと踊った音楽と時代

*前編のラジオ番組風茶番↓からの続き 「俺たち大丈夫:人種と新たなる隔離について」(ジェフ・チャン著)(未訳) 目次 さよなら、音楽好きの大統領 おまけ1:ファクトチェック・オバマ おまけ2:オバマの8年にリリースされたブラック音楽8選

黒い大統領の8年のダンス -(前編)カウントダウン・オバマ

「ヒップホップは死んじゃいない。ホワイトハウスで生きている」(サンフォード・リッチモンド著)(未訳) やあみんな、お待ちかね!オバマのゴールデン・ヒッツを振り返る、カウントダウン・オバマの時間だよ! お相手は僕、DJバリー(Barry)と、 MCミー…

書くことは、失敗すること - Ta-Nehisi Coates on Writing

「私のすべての作品において、失敗はおそらくもっとも重要な要素です。」"Failure is probably the most important factor in all of my work." 「書くことは、失敗することだからですー何度も何度も、嫌というほど。」"Writing is failure. Over and over a…

カタルシスより笑い - エトガル・ケレット未訳短編集

「あんたらが任務にあたるとき、天国で70人のエロい処女が待っていると教えられるってホント?」 「ホントだよ」ナッサーは言った。「それで実際に俺が手にしたものを見てみろよ。ぬるいウォッカだ。」 自殺した人間だけが行き着く世界のとあるバーで、自爆…

'各自の生活を美しくしてそれに執着する'ための2016年のブラックミュージック

"All you Black folks, you must goAll you Mexicans, you must goAnd all you poor folks, you must goMuslims and gays, boy, we hate your waysSo all you bad folks, you must go" (黒人たちめ、出て行けよメキシカンども、出て行けよ貧乏人め、出て行…

イ・ラン「神様ごっこ」とミランダ・ジュライ - Playing God by Lee Lang

「すごい!神!」「あぁ、神だw」 誰かと話したりネットのコメントを見ていて最近思うのだけど、日本語の「神」という言葉の使われ方って、いつのまにか英語の'Oh my God!'とあんまり変わらなくなっている気がする。上の2つはどちらもまんま「オーマイガ」に…

プロは奇跡を起こさない - 「ハドソン川の奇跡」と「夜間飛行」

御年86歳のクリント・イーストウッド監督の新作映画「ハドソン川の奇跡」を観た。ニューヨークのハドソン川にUSエアウェイズ便が不時着して世界中でニュースとなった2009年の出来事を描いた本作は、アクション映画でもパニック映画でもなかった。どんな映画…

ぼくが消えないうちに - The Imaginary by A.F. Harrold

忘れられ、消えてなくなる存在が主人公の児童書。本書の主人公ラジャーは「イマジナリー・フレンド」である。少女アマンダの空想のなかに存在する男の子だ。

【追記あり】Nikes by Frank Ocean

2016/9/18:この記事はもともと歌詞対訳と簡単なコメントだけを載せていたが、いろいろと余談を語りたくなったので追記をした 追記1:BlondでありBlondeでもある両義性 追記2:Kohhと似た固有名詞の使い方 追記3:異界の声としてのフィルターボイス

翻訳できない世界のことば - Lost In Translation

このブログは未翻訳の洋書を日本語版発売前にかいつまんで紹介するのがメインのブログだけど、以前紹介したイスラエルの作家エトガル・ケレットの本とか、とても好きなものは日本語版が出ていても取り上げたい。 本書「翻訳できない世界のことば」(原題'Los…

インターネットだいっきらい - I Hate the Internet by Jarett Kobek

I Hate the Internet by Jarett Kobek もしカート・ヴォネガットがはてな匿名ダイアリーを書き殴ったとしたら。そんな小説が本書'I Hate the Internet'である。 トラルファマドール星人やボコノン教は出てこないけれど、かわりに、マーク・ザッカーバーグも…

【番外】坂本慎太郎「できれば愛を」と2016年の憎しみ

書評と全然関係ない番外記事。 今日(2016/7/26)の日記みたいなもの。 夜に仕事から帰宅したら、予約していた坂本慎太郎の新アルバム「できれば愛を」が届いていたので聞いた。

【番外】もしUSにフリースタイルダンジョンがあったら

書評と何の関係もない、遊びの番外エントリです。 フリースタイルダンジョンをいつもYoutubeで見ていたのですが、権利問題の関係でオフィシャルにはYoutube配信中止になってしまいました。 で、かわりに?Swayのフリースタイル動画を見ていたら、Commonがめ…

【まとめ】エトガル・ケレットと「あの素晴らしき七年」

2016/06/06追記 「あの素晴らしき七年」の訳者の秋元孝文さんがこのブログを紹介してくださいました! 秋元孝文 On the Road to Nowhere: エトガル・ケレット 『あの素晴らしき七年』 書評情報 (注)個人的な「黄色い本」3きょうだい。どれかを好きな人には…

書くための10のルール(というか隠れた真実)by エトガル・ケレット

イスラエルの作家エトガル・ケレットの自伝的エッセイ集「あの素晴らしき七年」に恋しているので、引き続き関連エントリー。 Twitterでケレットによる執筆十ヶ条という記事を紹介している方がいた(この方はケレットのエッセイのうまさを米原万理と並べてい…

架空の賛辞で好きな本を全力プッシュしてみる

目次 前置き:「私の」本 エトガル・ケレット「あの素晴らしき七年」ー本書に寄せられた本当の賛辞 エトガル・ケレット「あの素晴らしき七年」ー本書に寄せられた架空の賛辞 参考資料

イスラエルでは裏切り者、他の国でもボイコット - エトガル・ケレットインタビュー抄訳

”In Israel people would boycott me saying I’m a traitor, and overseas people would boycott me because I’m Israeli.” 「イスラルでは人々は私を裏切り者と呼んでボイコットし、海外ではイスラエル人だからという理由でやはり人々は私をボイコットする…

時には4月に雪が降る - D'angeloによるPrinceトリビュート

POP LIFE

【Voiceを聞いてきた】イーユン・リー x 川上未映子 in 東京国際文芸フェスティバル2016

大好きな作家のイーユン・リーが東京国際文芸フェスティバルというイベントで来日! あ、でもトークライブは平日の夜か。仕事で行けなそう。。 お、でも会場が職場のすぐ近くだ! という個人的な経緯を経て、2016年3月3日の川上未映子さんとのトークライブに…

【和訳と感想】白人の特権II - White Privilege II by Macklemore & Ryan Lewis

書評ではないのですが、白人ヒップホップデュオのマックルモア&ライアン・ルイスが2016年の1月に発表した'White Privilege II'という曲の歌詞を日本語訳してみました。上に貼ったYoutubeで公開されている他、特設サイトで無料配信もしている曲です。 この曲…

【番外】星野源の今後を勝手に考える

星野源 - YELLOW DANCER 書評と何の関係もない番外エントリです。 星野源の新アルバム「Yellow Dancer」の感想と今後やってほしい事の妄想です。

頼むから物語らないでくれ - A Sheltered Woman by Yiyun Lee

こんな作家がゴロゴロいるのなら、村上春樹ってまだまだノーベル文学賞を取ったりしないんじゃないか。。イーユン・リーの「独りでいるより優しくて」(篠森ゆりこ訳)という長編小説を今年読んだとき、そう思った。ゴロゴロいるのかは知らないが、イーユン…

続・コミュニケーションに悩む全ての人にオススメの作家 - On the Move: A Life by Oliver Sacks

ひとつ前の記事↓で紹介した、神経科医で作家のオリヴァー・サックスの自伝に関する話の続き。 前の記事にも少し書いたけれど、自閉症などの神経障害患者が単なる治療対象としか見られていなかった70年代や80年代に、オリヴァー・サックスは彼らの内面と向き…

コミュニケーションに悩む全ての人にオススメの作家 - On the Move: A Life by Oliver Sacks

On the Move: A Life 作者: Oliver Sacks 発売日: 2015/04/28 年末になるとメディア上に「今年亡くなった人々」という記事が出たりする。神経科医で作家のオリヴァー・サックスも今年亡くなったうちの一人だ。本書"On the Move: A Life"は、2015年の8月にが…

【番外】Pitchforkアルバムレビュー翻訳:Miguel "Wildheart"

PitchforkというUSのWebメディアがあります。インディ系のロックや電子音楽やブラックミュージックなどを主に紹介するメディアです。以下はそこに掲載されているレビュー記事の翻訳になります。 レビューされている音楽は、LA出身R&BアーティストのMiguel(…

【続き】悪人って誰? - The First Bad Man by Miranda July

ひとつ前のエントリ↓で紹介したミランダ・ジュライの小説"The First Bad Man"についての余談。このタイトルが何を意味するかについて。 彼女が以前出した短編集"No one belongs here more than you.”は、複数の意味に取れるタイトルになっている。同書の日本…

これも愛 - The First Bad Man by Miranda July

The First Bad Man: A Novel (English Edition) 作者: Miranda July 発売日: 2015/01/13 ミランダ・ジュライの小説”The First Bad Man"の主人公Cheryl(シェリル)は、自分の生活スタイルを「システム」と呼ぶ。人は沈んだ気分になると皿洗いも面倒になって…

もう少しだけ親切に - Wonder by R. J. Palacio

Wonder作者: R. J. Palacio発売日: 2012/02/14 "I wish every day could be Halloween." 10歳の男の子オーガストは、クリスマスや他のどんな祝日よりハロウィーンが大好きだ。 スターウォーズ好きの彼は、映画に登場するキャラクターの仮装を毎年行っている…